1311声 三面鏡の天瓜粉

2011年08月03日

ベビーパウダー。
日本で言えば、天瓜粉(てんかふん)がそれに当たる。
俳句では夏の季題であるが、瓜の粉と書くくらいだから、
その原料は、やはり、黄烏瓜の澱粉を用いて製造されている。

あせも防止の為に、現在でも幼児のいる家庭では欠かせない物だろう。
先日も、知人宅へ行った際、風呂から上がった赤ちゃんに、パタパタとはたいていた。
それがベビーパウダーでなく、天瓜粉だと分かったのは、あの匂いの為。

あれは、小学校一年生くらいだろうか。
夏休みには必ず、祖父母の家へ泊まりに行った。
一日、遊び疲れて夕暮。
風呂から上がると、祖母はかならず、私を風通りの良い縁側へ連れて行き、
天瓜粉をはたいてくれた。
白い粉に包まれると同時に、あの天瓜粉の乾いた花のような香りに、包まれる。
脳裏に浮かぶその映像はいつも、日暮し蝉の鳴いている、晩夏の夜である。

その祖母はいま、病院で夏を過している。
あれから二十年以上経った今も、祖母の家の仏間には、
天瓜粉の入っていた三面鏡が置いてある。
夏が過ぎても、祖母は家に戻って来れなそう。
そんなことは、万に一つも無いのだけれど。
なんだか、あの三面鏡の引出しの中には、まだ。
あの天瓜粉の缶が、入っている気がしてならない。

【天候】
終日、曇り。
高崎市では雨は降らなかったが、
隣の埼玉県ではゲリラ豪雨があったらしい。