ビルの上のビアガーデン。
その屋上から、夕暮の桐生の街を一望していた。
夜よりも深い色に染まって行く、山並み。
桐生競艇場の、煌々とした灯り。
駅から出てゆく、短い電車。
そして、真下に広がる街中。
目抜き通りである、本町通りでは交差点ごとに櫓を囲んで、
熱狂の八木節音頭。
高崎の仲間と合流し、屋上の夜風に吹かれつつ、麦酒で乾杯。
浴衣で立ち働く店員のお姉さんも、つまみも麦酒も、
そして、街に鳴り響いている八木節も、変わっていない。
昨年から、一年経っている事を踏まえて、そう感じた。
桐生の街に住む、お年寄りも子供も、共有している八木節は、
変わらないのであろう。
ひとしきり、飲んだところで、ビル屋上から降りて、本町五丁目の櫓へ。
踊りが、思い出せるかいささか不安だったが、15分も踊りの輪を見ていれば、
頭で考えるよりも、体が思い出した。
二時間くらいは、休み休みであるが、踊った。
仲間はみな、滝の汗。
麦酒を飲んで踊っては、また滝の汗。
いつもの事ながら、終電へ飛び乗り、帰路へと着いた。
スナックのママ、銭湯の親父さん、その他、知り合いの方々への挨拶も、
満足に出来ぬまま、電車は進む。
本町通りの人ごみの中で、偶然遭った、銭湯の親父さん。
一人で、黙々と、ゴミ拾いをしていらした。
ビニール袋に散らかされた缶ゴミを入れつつ、
縁石に腰掛けていた、金髪の青年三人に向かって言う。
「綺麗になるとさ、きもちいいだろ」
「そーっすよね」
大分酔っているらしい青年たちは、うすら笑いを浮かべつつ、
腰を上げて雑踏の流れへ向かった。
腰をかがめて黙々と、道路を歩いて行く親父さんの後姿を見ていて、
冷水を浴びせられた様に、胸に響いた。
親父さんの居る桐生の街は、素晴らしいと思った。
自分の血の中に、八木節の音頭が染み込んで行く、感覚。
その土地の湯へ浸かって、その土地の酒を飲んで、
その土地の音頭に身を委ねる。
理屈ではない、この面白味。
【天候】
終日、曇りがちなる晴れ。
各地域で、一部夕立。