1343声 同居虫

2011年09月04日

「ツツツツーッ」
9行目から10行目を越えて、11行目へと、行間を縫って走って行く。
その白い体の横についている小さい足が、忙しく動く様が、確認できる。
指で止めを刺すのも忍びないので、
「フッ」
と、ひと息吹きかけると、呆気なく、吹き飛んで行ってしまった。
吹き飛ばしてから、
「あいつが、今度は私が寝てる間に体を這いまわっていたら」
などと思って、なんだか体の痒みと後悔に襲われる破目になってしまった。

「あいつ」と言うのは、今時期に良く見かける、「本の虫」の事である。
この場合の本の虫、と言うのは読書家の意でなく、「紙魚」と言われる、実際の生きた虫。
読書家にとっては、馴染み深い虫であろう。
馴染み深いと言っても、本を食べてしまう虫なので、
歓迎される虫でなく、「害虫」と区分される事が多い。
原始的な虫らしく、古くから人家に住んで、障子や本などに棲みついている、
体調は米粒の半分程くらいの小さな虫である。

この紙魚、俳句では夏の季題になっており、古くから句に詠まれてきている。

紙魚食うてこころもとなき和綴本  (片岡片々子)

私も、いま、40年くらい前の俳句の本の頁を捲っていて、この紙魚と出遭った。
古本で買った本なのだが、長らくハードカバーから出される事が無かったのであろう、
黴やシミなどが頁に見られるので、紙魚が棲みついていてもおかしくは無い。
しかし、無数に蔓延っているこいらと一緒に暮らすと考えると、
なんだかむず痒い思いがする。
私の部屋には、古い本、例えば戦前に発行された本なども少なからずあるので、
1匹2匹では、当然済まないだろう。
いま、この位置から見える本棚の2段目と3段目を占領している、
焦げ茶色に日焼けした「荷風全集」など、ハードカバーの中身を想像しただけで、おそろしい。
これから、読書の秋。
すこしは、ケースから出して、天日で虫干ししてみようかしら。
そう言えば、「虫干し」もまた夏の季題。
つくづく、日本人と言うのは細やかな季節感の中で生きていると、思う。
あー、痒い痒い。

【天候】
終日、降ったり止んだり、台風による不安定な天気。