「ツツツツーッ」
9行目から10行目を越えて、11行目へと、行間を縫って走って行く。
その白い体の横についている小さい足が、忙しく動く様が、確認できる。
指で止めを刺すのも忍びないので、
「フッ」
と、ひと息吹きかけると、呆気なく、吹き飛んで行ってしまった。
吹き飛ばしてから、
「あいつが、今度は私が寝てる間に体を這いまわっていたら」
などと思って、なんだか体の痒みと後悔に襲われる破目になってしまった。
「あいつ」と言うのは、今時期に良く見かける、「本の虫」の事である。
この場合の本の虫、と言うのは読書家の意でなく、「紙魚」と言われる、実際の生きた虫。
読書家にとっては、馴染み深い虫であろう。
馴染み深いと言っても、本を食べてしまう虫なので、
歓迎される虫でなく、「害虫」と区分される事が多い。
原始的な虫らしく、古くから人家に住んで、障子や本などに棲みついている、
体調は米粒の半分程くらいの小さな虫である。
この紙魚、俳句では夏の季題になっており、古くから句に詠まれてきている。
紙魚食うてこころもとなき和綴本 (片岡片々子)
私も、いま、40年くらい前の俳句の本の頁を捲っていて、この紙魚と出遭った。
古本で買った本なのだが、長らくハードカバーから出される事が無かったのであろう、
黴やシミなどが頁に見られるので、紙魚が棲みついていてもおかしくは無い。
しかし、無数に蔓延っているこいらと一緒に暮らすと考えると、
なんだかむず痒い思いがする。
私の部屋には、古い本、例えば戦前に発行された本なども少なからずあるので、
1匹2匹では、当然済まないだろう。
いま、この位置から見える本棚の2段目と3段目を占領している、
焦げ茶色に日焼けした「荷風全集」など、ハードカバーの中身を想像しただけで、おそろしい。
これから、読書の秋。
すこしは、ケースから出して、天日で虫干ししてみようかしら。
そう言えば、「虫干し」もまた夏の季題。
つくづく、日本人と言うのは細やかな季節感の中で生きていると、思う。
あー、痒い痒い。
【天候】
終日、降ったり止んだり、台風による不安定な天気。