1356声 田舎美人の曼珠沙華

2011年09月17日

忽然と、と言う表現が誇張ではなく、
或る朝、忽然と彼岸花が咲いていた。
その名の通り、丁度、秋の彼岸の時期に申し合わせたように咲いてくる。
「彼岸花」、の他、「曼珠沙華」までは良いが、「毒花」、「墓花」。
さらには、「死人花」、「地獄花」、「幽霊花」なんて別名があり、古来から巷の人たちには、
不気味な花として見られてきたのであろう。

秋口になると、球根から育った花茎が、葉の無い状態で地上に出てくる。
その花茎の先端に、紅い六花弁を放射状に咲かせるので、「忽然」と、言った印象を受ける。
では、葉はどうするのかと言うと、花が咲き終わった後に、土から地上に顔を出す。
繁殖力が強く、痩せた田の畦には、群生している姿をよく見かける。
秋から冬にかけて、地上に出て来た葉が光合成しているのだと言う。
「田舎の美人」
そんな具合であうか、あの鮮烈な紅色が、目に止まる。
そして、とても魅力的な花である。

俳句では、「曼珠沙華」と言う呼び名がよく使われる。
おそらく、句作の上で使いやすいからであろう。
「彼岸花」だとか、「死人花」なんて言うと、イメージが固まってしまい易い。
そして、とても人気のある季語の一つである。

咲く前の姿幼し曼珠沙華  古賀まり子

咲く前のあの「つるん」とした花茎は、どこか「幼い」印象。

四方より馳せくる畦の曼珠沙華  中村汀女

畦の交差点に立って、ふと四方の畦を見渡すと、馳せて来るように群生している。

つきぬけて天上の紺曼珠沙華  山口誓子

鮮烈な紅が、空の紺をいっそう際立たせる。この天空は、高く広い。

曼珠沙華散るや赤きに耐へかねて  野見山朱鳥

落花して散るはずのない花に、もし、散る理由があったなら。

曼珠沙華消えたる茎のならびけり  後藤夜半

作者の透徹した眼の前には、残された花茎の群れがあるばかり。

【天候】
終日、秋晴れの残暑。