6439声 生き方を束ねることは可能か 

2026年01月23日

岡安賢一noteより転載

昨年、日経プラス1の「薪ストーブの宿ランキング」で全国1位を獲得した長野原町北軽井沢のキャンプ場「スウィートグラス」には、ツリーハウスビルダーの稲垣豊さんによるものすごく背の高いツリーハウス「ノッポ」が建っている(一番高いテラスは地上10メートル!)。この建物には、昨年中之条ビエンナーレ2025にも出展した中川浩佑くんの風で振動し音を鳴らす弦も張られており(彼は先に書くきたもっくの社員でもある)、ツリーハウス命名コンテストで僕は「風の灯台」という名を応募したのだが・・多分箸にもかからなかった(余談だが、海なし県群馬にあって「灯台」という言葉は「場所を知らせるための場所」という意味で、近年個人的に大切な言葉になっている)。

命名コンテストでは落ちたが、群馬県観光情報サイトECOぐんまが県内で環境への配慮に優れた企業としてスウィートグラスを運営する「有限会社きたもっく」を選出し、僕は「まちの編集社」からお声がけいただき、そのサイト用の映像制作を担当することになった。方々にとって好都合なことに、僕は4年前にきたもっくの仕事で四季折々様々な事業を撮影していた。今回の県の仕事では、それら過去映像も素材として使い、新たにきたもっくに勤める7人と福嶋誠代表、計8名のインタビューを行った。

主に若手スタッフへのインタビューで、県が情報として欲しいサーキュラーエコノミーへの取り組み(廃棄物をできるだけなくし、資源を循環させながら活用していくこと)や、きたもっくの理念が表せるのではないか、と提案をしてくれたのはきたもっく事業戦略室の土屋慶一郎さんだった。きたもっくはキャンプ場以外に林業、薪・炭製造業、ストーブ販売、カフェ・ギャラリー運営、養蜂業など多岐に渡る事業を展開している。その様々な仕事に1本の道筋を作る事が今回の映像の柱となった。

自社で所有している二度上山の木を切り、木材として使用できない部分を薪や炭にする。それらを燃料としてストーブを(キャンプ場を)暖め、熱は養蜂にも利用し、焚火にすればそれはミーティング施設「TAKIVIVA」のコミュニケーションツールとしても利用できる。インタビューは基本、各自が普段行っている仕事についてのインタビューだったのだが、編集で繋いでいて個人の必然性と会社の必然性とが重なる瞬間が多々あった。サーキュラーエコノミー等の横文字は僕は未だに苦手意識があるのだが、理想論ではなく現実の話として映像が組めることに手応えを感じた。

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インタビューの最後には結局、福嶋誠さんにも出ていただいた。彼は年始の対外プレスの中で「生成AI(人工知能)の技術的発展によって、現代社会の過半の産業や事業所の消滅が予想されているが、何も恐れることはない。働く場など自然の中にいくらでもある。むしろ急ぐべきは未来を指し示す“誇りある労働”が組織されるか否かにかかっている」と述べている。

ここからは僕の解釈を含める。パソコンやスマートフォンを操作し、娯楽を得たりマネーゲームを行ったり、身の丈以上の自分を見せようとしたり、身の丈以下に自分を卑下してしまったりする。そういう世界にAIが投入されることで、自分のアバターとも呼べる一部は拡張したり縮小したり捏造されたりする時代がやってくる。私は何? という疑問は、より加速していくのだろう。

その一方で、確かに自然の営みの中では人は等身大でいられる。それは個人個人が体感として気付くしかないものではあるが、自分を顧みても、狩猟の撮影で無力さを知った時や、雄大な浅間山のふもとに立つ時、温泉に浸かって指先までじんじんした時、リアルを感じる。映像の中では、フィンランドに滞在経験があり、木や皮や様々な工芸もできるTAKIVIVAスタッフの桑田瞳さんが「薪を燃やしてご飯を作る、暖を取るとか、人間の生活の中に当たり前にあった行為を私たちはビジネスとして行っている。当たり前にあった流れの中の行為だから自然な行為なのかなと思います」と語っているが、その先にあるのがきっと、生きて、生きていくことを支える、誇りある労働なのだろうと思う。

AIと向き合い孤立する人の集団と、自らを使って生活を共にする集団、どちらが幸福かは言わずもがなという気がする。きたもっくのこれからとして、家族ではなく事業体として、個性ある人々の生き方を束ねていくことは可能なのだろうか。この先が問われている。

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ここからは今回の仕事から離れるが、きたもっくとの仕事を考えた時、昨年末に亡くなった写真家の田淵章三さんを思い出さずにはいられない。田淵さんは北軽井沢に移住後、福嶋誠さんと意気投合をし、誠さんの書籍「未来は、自然の中にある。」(上毛新聞社)の制作や、社のブランディングに関わった。

4年前の映像制作でもアドバイスに入っていただき、よく「岡安はまじめでつまらん」とダメ出し・・アドバイスをくれた。見せることが出来なかった今回の新たな映像もきっとそう言われただろうなとは思いつつ、浅間山やそこで暮らす・暮らした人々に負けないように、僕も自分なりの誇りある労働を探していきたいと思う。

ECOぐんま 山の恵みを循環させ自然と共生する産業モデル【有限会社きたもっく】(映像は下記リンク先から見られます)
https://ecogunma.pref.gunma.jp/news/145.html

田淵さんとの共作 有限会社きたもっく ー未来は自然の中にあるー
https://youtu.be/uPQssqP5szY?si=3Il1G0A_BFcuNheM