5576声 合わせない選択

2026年06月09日

(続き)栃木県の「もうひとつの美術館」は明治の面影を残す校舎で2001年から始まった。「みんながアーティスト、すべてはアート」を掲げ、普段から障がい者アートにも力を入れている。

今回撮影した「繰り返しの極意Ⅱ」展は12人の作家が参加。それぞれに、先述したチハヤ会や、ほかに群馬だと工房あかね、県内外各地の福祉施設に通ったり滞在している利用者の方たちが、作家として名を連ねている。どれも良かった。

工房あかねの鈴木雅史さんはものすごーく細かい絵を書く。会場には虫眼鏡が置かれており、それでじっと覗き込むくらい細かい。はじめ、それはただ点を規則的に打ったもののように進められているっぽい。そしてその点に色が重ねられていくと、鳥の輪郭を帯びてくる。全ての作品がそのスタイルで貫かれている。どれだけの時間をかけたのだろうか。写真では(映像でも)伝えにくい<迫力>がその絵を対面すると感じられる。

チハヤ会の小原武さんも面白い。普段から(ボールペンだと思うが)紙に絵を描く。絵と言っても何かを書き写すわけではなく、自由な線だけが紙の上を踊っていく。そして彼は、それをびりびりに破くのだそうだ。描いてはびりびり、描いてはびりびり。くしゃっと丸められた紙はけっこうなボリュームにもなる。いつからか、チハヤ会のスタッフはそれを捨てずにとっておくようになった。実際、美術館の会場にも、大きなポリ袋にぎっしりのそれが、何袋にも渡って並んでいた。中央には、それがまるで貴重な美術品のように(そう展示された時点で貴重な美術品なのだが)台座と筒に収められ飾られている。小原さんは栃木にも足を運び、ご家族でこの展示を見て喜んでいたそうだ。

障がいを持つ人たちは、独自の生活リズムで暮らしている。それを一般社会に強制しようとすると、反発もあるだろうし双方機嫌が悪くなる。だからといって、好き放題やらせるということがどれだけ難しいかは介護に関わる人間でなくても想像はできるのだが、ここに展示された12人の作品からは「合わせない選択」を選んだがゆえののびのびさを感じた。