第1回「地蔵峠とカンカン帽のよなよな狂い咲き」

2010年08月22日

自分の中の「狂」に触れてみる。
そしてそれを、「興」として咲かせる。
自分で書いたこの言葉の意味を探しつつ、
黄昏迫る前橋駅のホームに独り、佇んでいた。
桐生行きの電車内には、この日、
沿線各地で開催されている祭りに行くのであろうか、
浴衣姿の男女がひしめき合っている。
吊皮を掴んでいる私の横、ほのかに、懐かしい香水の香。
「はっ」として、首を横に向けると、そこには、知らない女性のうなじ。
停車中の伊勢崎駅で、参加者と合流し、桐生駅へ着いて、残りの参加者と合流。
最終的に総勢は7人を数えた。
この「最終的に」ってのは、本企画を目当てとしていなく、
あくまで「八木節祭り」として来た方が、参加者の呼びかけにより、
後から合流して下さったのだ。
入口は違えど、桐生市本町通りに終結した私たちの、最終目的は一致している。
つまり、八木節祭りにおける「狂い咲き」である。
桐生駅を出た私たちは、未だ陽の高い街を、路地へと入り込む。
まず、私も以前一度案内された事のある、老舗焼き鳥屋の暖簾をくぐる。
ほのじ氏は、桐生に来るとこの店で一杯飲まないと気が済まないらしい。
喉を潤して、次に向かうは、ビアガーデンである。
ビルの屋上に揺れる、提灯を見ると、どうも吸い寄せられてしまう。
屋上の席は、眼下に広がる桐生の町を一望できる。
夕焼け色が溶けたカクテルの如き、青空。
黄昏の街に明滅する、祭りの灯。
そして、風に乗って聞こえてくる、八木節。
これには、艶やかな着物で参加している無二嬢も、うっとり。
男性陣は浴衣姿が妖艶なビアガーデンのママに、うっとり。
宵闇迫り、祭りも佳境になって来た頃。
本町5丁目に設置された、櫓に移動。
桐生合流組の方々。
子供時分から祭りに参加している、謂わば「ネイティブ」の桐生人。
その方々を師と仰ぎ、即席路上八木節講座を開いて、ご教授頂く。
そして、一堂、櫓の周りで踊っている輪に飛び込む。
足取りも覚束ないままっであるが、およそ10分も踊っていれば、
心臓の鼓動も八木節のリズムで脈打っているかの如く、
気付けば、体が自然と動いている。
踊りの最中、気になったのが、踊り手の発する掛け声。
毎年気になって来たのだが、今年こそは覚えようと、
踊りながら耳を澄まして聞いていた。
いささか間違っているかもしれないが、私にはこう聞こえた。
「小原庄助さんはぁ、なんで身上潰したぁ」
「朝っ寝、朝っ酒、女が大好きでぇ、それで身上潰したぁ」
「あーもっともだぁ、もっともだぁ」
「いいや違う、いや違うぅ、あっそれぇ、いいやそうだ、いやそうだぁ」
「祭っりだ、祭っりだ、桐生の祭っりだぇぃ」
これを皆、大声で歌う。
可愛らしい小学生から、素敵な老境の御仁まで、汗みずくの真っ赤な顔して、
「朝っ寝、朝っ酒、女が大好きでぇ」
と歌うのである。
こんな素晴らしい光景は、群馬県内の祭りに類を見ない。
まさに、「狂」を「興」としていた。
「狂い咲き」
酔眼と汗に滲んだ目の前の光景に、それを見た。
櫓の周りで妖しく蠢きながら、よなよな狂い咲いた、花たち。
桐生に咲いた花は、なんと妖艶で、なんと扇情的で、
なんと浮世離れした色の花だったか。
もはや、筆舌に尽くし難い。
ちろちろと燃えている、炭火。
目を閉じると、我が胸中にそんな光景が想像できる。
そして、その炭火の周りは随分と賑やかな様子である。
耳を澄ませば、八木節に合わせ、輪になって踊っている、私たち。
参加者代表:抜井諒一