217声 L字カウンターのブルース

2008年08月04日

さて、と書き出してから、PCの前で反芻すること小一時間経過。
そろそろ晩酌の酔いも醒めてきた。
酔い醒ましに冷たい麦茶でも一杯飲んで、蛙の声でも聞きに行こうか。

って、駆け込み乗車してくる思い出。
脱線覚悟で文章化作業。
いつかの夏。
山の手から少し外れた、東京の下町。
その日夕方、私は駅の裏通りにある、立ち飲み屋で独り呑んでいた。

L字カウンターで言う、短い部分の奥。
瓶ビールに煮込み、やがて酎ハイ。
カウンターの向こう、愛想の良い店のおばちゃんが、
空になった私のグラスを見、気を利かせて。
「注文は大丈夫かい」
「じゃあ、酔い覚ましに瓶ビール」
私が言ってから一拍置いて、斜め向いL字カウンターで言う、長い部分の手前。
日に焼けて、白髪交じりの坊主頭が黒光りしているおやっさんが、のそっと小さく動いた。
そして、呂律の回らない舌で言った。
「酔いをよぉ、醒ましちまったら、もったいねぇじゃねぇ」

あっけに取られていると、瓶ビールが到着。
業とらしく目を泳がせて、曖昧な返事の私。

会計を済ませて店を出る時、おやっさんを見たら、
ぼやけた視線で壁に貼ってあるメニューを見つめていた。
いささかひょうきんで、どこか悲しそうな顔。
店を出ると、暑さに歪んだ夜の街。
「もったいねぇじゃねぇ」
って、真似しながら信号待ち。