232声 その少年のリュックサックはなぜパンパンだったのか 後編

2008年08月19日

「何よ、アンタそれ」
カナキリ声に近いその声に、周囲の空気は一瞬凍結。視線一集。
こーすけの両手に抱きかかえられいたのは、何やら黄色い物体。
「ピカチュウだよ」
って、臆面も無く平然と答えるこーすけ。
「ピ、ピカチュウって、アンタまさかそれだけ持って来たの」
呆気に取られて、目玉の輪郭をハッキリさせるお母さん。
「そうだよ、ピカチュウと一緒に行くんだ」
今度はどもらずに、ぬいぐるみのピカチュウを抱きしめながらお母さんを見据え、
やや力を込めて明瞭に答えるこーすけ。

すると、堰を切った様に前に座っていた姉二人が爆笑。
「アンタ、ははは、バカ、っははは、じゃないの、ははは」
って、椅子からずり落ちそうになりながら、泪目で腹を抱える右のお姉ちゃん。
もう椅子からずり落ちて、床に膝を付いて笑い転げる左のお姉ちゃん。
引きつり顔で口をポカンと空けて、肩で笑ってるお母さん。

私を含めた周り一同、視線を逸らしながら笑いを堪えるのに必死。
加速する車内の空気が、一気に和む。
その光景を不思議そうに見つめてる、こーすけとピカチュウ。
その横、中身空っぽのバックまで、大きく口を開けて笑っていた。

旅の最中、最初の電車内での一幕。