《昨日の続き》
「はい」
やや呆然と聞き返した。
「質屋です。この近くに質屋ってありますか」
くっきりと、薄紫のアイラインが引いてある大きな目が問いかける。
表情は柔らかく、丁寧な口調。
「いや、分かんないですね」
左手の手拭いを少し隠しながら、曖昧な表情で答えた。
「そうですか。ありがとうございました」
軽く会釈して、車は前進。
加速しながら、滑らかに閉まってゆくパワーウィンドウ。
以前呆然としたまま、ブレーキランプの点滅を見ている。
「質屋」
と、歩きながらわざと口に出してみる。
質屋探しの娘の背景物語を、出鱈目に想像。
想像上の物語は、風呂屋を探す男と質屋を探す女が、
偶然路地裏で出くわす部分まで差し掛かった。
不意に顔をあげる。
並ぶ住宅の瓦屋根の向こうに、大儀そうに煙を吐く古びた煙突が見える。
行ってみると、やはり土地の銭湯。
色が褪せ、生地の痛んだ紺暖簾が無愛想に揺れている。
番台のおじいちゃんに、360円を払って脱衣場へ入ると、先客は無し。
「この近くに質屋ってありますか」
と聞くと、
「ないね」
映りの悪いテレビの声に紛れて、搾り出す様な声が返ってきた。
浴室へ入り、赤い取っ手のカランから桶に湯を出す。
カランの上に備え付けてある鏡の脇には、
土地の店の屋号と電話番号が印字してある。
その中には、「質店」の屋号もあった。