茨木のり子の詩より『聴く力』

2013年05月28日

ひとのこころの湖水
その深浅に
立ちどまり耳澄ます
ということがない

風の音に驚いたり
鳥の声に惚けたり
ひとり耳そばだてる
そんなしぐさからも遠ざかるばかり

小鳥の会話がわかったせいで
古い樹木の難儀を救い
きれいな娘の病気まで
「聴耳頭巾」を持っていた うからやから

その末裔は我がことのみに無我夢中
舌ばかりほの赤くくるくると空転し
どう言いくるめようか
どう圧倒してやろうか

だが
どうして言葉たり得よう
他のものを じっと
受けとめる力がなければ