323声 御不浄物語 前編

2008年11月18日

今を遡る事、僕が高校二年生時分。
今回は一人称を、「僕」にしてみる。
「私」でも、「西山日出男」なんて仮名でも良いのだが、
これから書く間の抜けた男には、僕が合う様な気がする。
さて、話を戻す。

春の放課後である。
修学旅行を直前に控えていた。
修学旅行の学生ってのは、大抵、新しい下着を身に付けて行く。
要は、そう言う年頃なのである。
多分に洩れず僕も、その日の放課後、家路から足を延ばして、
学校の近くにあった衣料品店に立ち寄った。

店内でパンツを選んでいる、制服の学生。
店員の視線を背中に浴びつつ、焦って選んでいた、その瞬間。
下腹部に電流一線。
ハードパンチャーのボディブロー。
突然の鈍痛である。

「うっ」
っと、反射的に体が、くの字型に折曲がる。
肛門括約筋の収縮率から算出する、余時間は、一刻の猶予も無し。
つまりは、最悪の状態。
平たく言うと、「もれそー」なのである。

全身の血が、一気に下降して行くのが分かる。
「ヒッ、ヒッ、フー」
と、気が動転して何故かラマーズ法で呼吸しつつ、
内股ヨチヨチ歩きで店の外へ出る。
「フー」の部分で、括約筋が弛緩したのか、状態は土砂崩れ寸前。
自動ドアを出た瞬間、「ダメだな、こりゃ、しかし」と絶望的観測。
直ぐそこに駐輪してある自転車までの道のりも、困難。
虚ろな視界に映ったのは、「WC」の文字。
トイレが外に付いている店舗だったのだ。
「神様、仏様、御不浄様」って、蜘蛛の糸を掴むが如く、男子便所へ。

赤。
ドアノブの色は絶望を表していた。
便所の入り口で放心。
白眼が徐々に黒眼を侵食。
「無念」
と、勝負を投げ出す寸前、脳裏に過る。
「女子便所だ」

もはや考える余地なし。
「ほんの2.3分」
色即是空。
南無阿弥陀仏。
九死に一生。
女子便所で恍惚。