今を遡る事、僕が高校二年生時分。
今回は一人称を、「僕」にしてみる。
「私」でも、「西山日出男」なんて仮名でも良いのだが、
これから書く間の抜けた男には、僕が合う様な気がする。
さて、話を戻す。
春の放課後である。
修学旅行を直前に控えていた。
修学旅行の学生ってのは、大抵、新しい下着を身に付けて行く。
要は、そう言う年頃なのである。
多分に洩れず僕も、その日の放課後、家路から足を延ばして、
学校の近くにあった衣料品店に立ち寄った。
店内でパンツを選んでいる、制服の学生。
店員の視線を背中に浴びつつ、焦って選んでいた、その瞬間。
下腹部に電流一線。
ハードパンチャーのボディブロー。
突然の鈍痛である。
「うっ」
っと、反射的に体が、くの字型に折曲がる。
肛門括約筋の収縮率から算出する、余時間は、一刻の猶予も無し。
つまりは、最悪の状態。
平たく言うと、「もれそー」なのである。
全身の血が、一気に下降して行くのが分かる。
「ヒッ、ヒッ、フー」
と、気が動転して何故かラマーズ法で呼吸しつつ、
内股ヨチヨチ歩きで店の外へ出る。
「フー」の部分で、括約筋が弛緩したのか、状態は土砂崩れ寸前。
自動ドアを出た瞬間、「ダメだな、こりゃ、しかし」と絶望的観測。
直ぐそこに駐輪してある自転車までの道のりも、困難。
虚ろな視界に映ったのは、「WC」の文字。
トイレが外に付いている店舗だったのだ。
「神様、仏様、御不浄様」って、蜘蛛の糸を掴むが如く、男子便所へ。
赤。
ドアノブの色は絶望を表していた。
便所の入り口で放心。
白眼が徐々に黒眼を侵食。
「無念」
と、勝負を投げ出す寸前、脳裏に過る。
「女子便所だ」
もはや考える余地なし。
「ほんの2.3分」
色即是空。
南無阿弥陀仏。
九死に一生。
女子便所で恍惚。