358声 寂れたラーメン屋

2008年12月23日

今週あたり、地方に住んでいる学生や、社会人などの帰省が始まるのだろう。
おそらく今週末は、各交通機関が帰省ラッシュで混雑。
しかし諸君、帰省は早めにするに越した事はない。
帰省のタイミングを逃すと、良い事がない。
と言う事を、瑣末的なエピソードに載せて。

帰省ラッシュに巻き込まれるのが嫌。
ってのを建前に、学校は冬休みに入ったのだが、アルバイトを続け、帰省するタイミングを見失う。
毎日、のんべんだらりと怠惰な酒を飲んでは、無為な日々を過ごしていた、学生時分の年末。

いよいよ今年も瀬戸際、大晦日の夕方。
ようやく重い腰を上げて、駅へと向かった。
頬を裂く様な寒風に向かい、人気の無い街中を抜け、自転車を駅まで飛ばす。
次の下り列車の時間までは、まだ大分時間が空いている。
腹も減っていたので、駅近く、寂れた佇まいのラーメン屋へ入った。

「失敗」
って、入口ドアを開けて一歩で確定。
カウンターの独り客と、厨房のおばちゃんが口論真っ最中。
ストーブで暖まった空気が横たわる、なんとも居心地の悪い、険悪な店内の雰囲気。
しかし、ぼんやりしている私は、ここでも帰るタイミングを見失って、おずおずと席に腰掛ける。

「はい、注文は」
って、水の一杯も出さないでぶっきら棒に聞く、厨房のおばちゃん。
その言い方が癇に障った。
のは、私よりもむしろ、論戦中のカウンターのおっちゃんだったらしく、
また激しい罵り合いが勃発。
「じゃあ、タンメンひとつ」
舌戦を割って注文。
しばしの停戦を試みる私。

「チッ」
私に向けたのか、おっちゃんに向けたのか、舌打ちを一つして、ガチャガチャ作り出すおばちゃん。
ますます過熱する口論を聞きながら、タンメンを啜る。
良く聞けば、この二人はどうやら親子で、両方かなり酒が入っている。

面がふやけてスープが温い、焦げた屑野菜が浮かんでいるタンメンは、涙が出る位不味かった。
そそくさと食べて、カウンターに代金を置いて席を立つ。
入口出際に、カウンター奥のテレビで始まった、紅白歌合戦。
その一瞬、口論が止んで、皆の注意はテレビに集中。
店を後にする、私の背中に、呂律がもたつく二人の声。
「よいお年を」