382声 藪入りで背水一滴

2009年01月16日

今日は藪入りの日である。
一年に二回ある内の一つ、正月の方の藪入り。
もう一つは盆の時期。

その、盆の藪入り時期、私は上野は鈴本演芸場で落語を聞くべく、
真夏の真昼の炎天下、蟻の行列で並んでいた。
そう、去年の事である。

やっとこ席にあり付け、その日の寄席は大入りで、立ち見が出るほどの活気。
トリを飾ったのは、三遊亭金時。
演目はもちろん「藪入り」。

恥ずかしながら、時節に疎い私。
その落語を聞いて、初めて藪入りと言う日の存在と、
一体どういう日なのかを知ったのである。
銭湯もそうだが、市井の慣習と娯楽と言うものは、
古くから結びついているものだと感じた。

金時師匠、迫真の落語で、それまで漠然と漂っていた会場の空気は、
みるみるうちに、感動を誘う、張り詰めた明瞭な空気に変わる。
その空気を打ち破る、割れんばかりの拍手。
深々と頭を下げ、ゆっくりと閉まって行く緞帳。
飛び交う掛声と、こぼれる満足気な笑顔。

此処まで辿り着いた読者。
「ところで、さっきから言ってる、藪入りって何んなの」
ってな、私と同じ様な弛緩した表情を浮かべている人が、中にはいるかも知れん。
この機会に、落語の「藪入り」。
背水一滴。
つまりは、弛緩した表情が、引き締まる。
そして、心を打たれるかも知れん。
まさに、背中に冷水が垂れるかの如く。