昨日の続き。
一二歩進んで、人影の方へと視線を注ぐ。
すると、脱衣場の奥、直線位置にある男湯湯船に浸かっている、
御爺さんと目が合った。
御爺さん、私の姿を目を細めて確認しているので、私も軽く会釈。
そしておもむろに、「おーい、郵便屋さんが来てるよー」と、
お爺さんの声が若干エコーを含みつつ、浴室に共鳴。
直ぐに女湯から帰って来たのは、
「おばさーん、郵便屋さんだってー」と、お婆さんの大声。
慌てて私、御爺さんに、
「違いますー、郵便屋じゃないんですよー」と大声で訂正。
またもや御爺さん、
「郵便屋さんじゃなくてー、牛乳屋さんだとー」と大声で女湯に連絡。
こりゃ、えらい事になってきた。
「牛乳屋」なんて、私は一言も言ってないのである。
訂正しようとした矢先、女湯から帰ってくる声。
「何言ってんだよー、牛乳屋さんは日曜は来ないんだよー」
一呼吸二呼吸置いて、湯船からゆっくり上がり、こちらへ歩いてくるお爺さん。
浴室のドアを開けて、私の顔をまじまじ見ながら、
「アンタ、どちらさん」と、腑に落ちない表情で問う。
ようやく弁解の余地を与えられた私は少し安心し、とりわけ明瞭な口調で答えた。
「お風呂に来た客です」
合点がいった御爺さん、再度、女湯へ声をかける。
「あのねー、郵便屋さんがお風呂入りに来たんだってー」
「あーそうー郵便屋さんねー」
私はもう、番台に360円を置いて、そそくさと服を脱ぎ浴室へ入る。
湯船に浸かると、すりガラスの向こうに人のいない番台が見える。
右斜め横、丹念に歯を磨いている御爺さん。
窓から西日、束になって降り注ぐ。