403声 緑青石のBBQ 後編

2009年02月06日

昨日の続き。

選択肢はもはや無し。
結氷した湖畔から吹く寒風にさらされながら、石焼計画の実行に移る。
まずは、問題の漬物石である。
その外観、緑青の湧いた銅像の様に、緑苔が生して染み込んでいる。
生憎、湖は凍っているし、たわしも無い。

「これ、一回洗わないと駄目だろ」
「ペットボトルの烏龍茶かけたら、飲料無くなるしな」
「そこの、雪で冷やしてる、缶ビールは」
「ビールなら、ウーロン茶かけろよ」
「いや、ビールかけろよ」

ってな、水かけ論に水を差したのは、友人の発想。

「あるよ」
「何が」
「雪が」
「雪、雪ね」

雪の中に石を投げ込んで、タオルでゴシゴシ擦る。
焼け石に水、ならぬ、苔石に雪。
随分と磨いたのだが、あまり綺麗になった感は無い。
しかし、痺れを切らした腹の虫が、いまにも這い上がって来そうな気配。
後は、加熱殺菌に賭ける。

錬炭に火を起こし、その上に石を置く。
十分に加熱してから、油をひいて、と言うかドボドボかける。
炭火の中で、ヌラヌラと怪しく光っている漬物石。
兎に角、肉を乗せて焼いてみる。
「ジュー」っと、肉の焼ける良い音と、香ばしい匂いが漂う。

「はい、じゃあ食って良いよ」
「えっ、良いよ良いよ、お先に」
「いやいや、運転してきてもらったから」
「いやいやいや、まずは、ビールのつまみに」

初めは押し付け合っていたのだが、どちらからともなく食べ出せば、
あっと言う間に、石焼が板に付いてくる。
石を熱し過ぎると、肉が焦げ付いてしまうので、
雪をかけて火を消し、余熱でサッと炙る様にして食べる。

「石焼も中々、風流だ」
とか、
「結果、焼き網を忘れて良かったではないか」
とか、
「これが究極のバーベキューなのだ」
とか、ビールの心地よい酔いと相まって、ご機嫌で石焼に舌鼓。

一通り、持って来た食材を食べ終えると、石に雪をかけ、
冷えたらタオルで擦り、元の場所へ戻す。
満腹で、土産話を携え、意気揚々と下山。
そして、散会。

次の日、職場を早退した友人は、そのまま二日寝込んだ。
三日目、起きて鏡を覗いたら、その顔には緑青が湧いていたと言う。