昨日の続き。
選択肢はもはや無し。
結氷した湖畔から吹く寒風にさらされながら、石焼計画の実行に移る。
まずは、問題の漬物石である。
その外観、緑青の湧いた銅像の様に、緑苔が生して染み込んでいる。
生憎、湖は凍っているし、たわしも無い。
「これ、一回洗わないと駄目だろ」
「ペットボトルの烏龍茶かけたら、飲料無くなるしな」
「そこの、雪で冷やしてる、缶ビールは」
「ビールなら、ウーロン茶かけろよ」
「いや、ビールかけろよ」
ってな、水かけ論に水を差したのは、友人の発想。
「あるよ」
「何が」
「雪が」
「雪、雪ね」
雪の中に石を投げ込んで、タオルでゴシゴシ擦る。
焼け石に水、ならぬ、苔石に雪。
随分と磨いたのだが、あまり綺麗になった感は無い。
しかし、痺れを切らした腹の虫が、いまにも這い上がって来そうな気配。
後は、加熱殺菌に賭ける。
錬炭に火を起こし、その上に石を置く。
十分に加熱してから、油をひいて、と言うかドボドボかける。
炭火の中で、ヌラヌラと怪しく光っている漬物石。
兎に角、肉を乗せて焼いてみる。
「ジュー」っと、肉の焼ける良い音と、香ばしい匂いが漂う。
「はい、じゃあ食って良いよ」
「えっ、良いよ良いよ、お先に」
「いやいや、運転してきてもらったから」
「いやいやいや、まずは、ビールのつまみに」
初めは押し付け合っていたのだが、どちらからともなく食べ出せば、
あっと言う間に、石焼が板に付いてくる。
石を熱し過ぎると、肉が焦げ付いてしまうので、
雪をかけて火を消し、余熱でサッと炙る様にして食べる。
「石焼も中々、風流だ」
とか、
「結果、焼き網を忘れて良かったではないか」
とか、
「これが究極のバーベキューなのだ」
とか、ビールの心地よい酔いと相まって、ご機嫌で石焼に舌鼓。
一通り、持って来た食材を食べ終えると、石に雪をかけ、
冷えたらタオルで擦り、元の場所へ戻す。
満腹で、土産話を携え、意気揚々と下山。
そして、散会。
次の日、職場を早退した友人は、そのまま二日寝込んだ。
三日目、起きて鏡を覗いたら、その顔には緑青が湧いていたと言う。