405声 飲み屋の仏

2009年02月08日

大人物と言うか、太っ腹と言うか。
粋人の中には感服してしまう程、気前の良い人がいる。

昨夜の居酒屋。
その方は一人で入店。
ツーッとカウンターまで入って来て、「瓶麦酒」。
70年配、はしご酒の途中であるのか、少々赤ら顔。
瓶麦酒をコップに注ぎ、カウンターの隅に居た私に向って、
「お兄さん、この店初めて」
と、おもむろに問う。
「はい」
と、間抜けな声。
「マスター、隣の方に瓶麦酒」

感謝して、チビチビ飲んでいたレモンサワーを空けて、瓶麦酒で乾杯。
この老紳士、多くを語らず、黙々とグラスを傾けている。
軽薄な私は、グビグビと、5分も掛らず瓶麦酒を空けてしまう。
すると、「マスター、お兄さんにもう一本ね」。
漸く、自らの節操の無い振る舞いに気が付き、赤面。
平伏して、改めて感謝の意を述べ、ゆっくりと、味わって飲む。

一時間もしない間に、その老紳士はまた、ツーッと暖簾を揺らして帰った。
帰り際、盛り上がっている直ぐ後ろの座卓に、瓶麦酒を一本。
座卓から離れて遊んでいた、見知らぬ子供に野口を一枚。
店全体で頭を下げて、その老紳士を見送った。

何となくホッとして、席に着く。
結局、老紳士の前には、入店時に注文した瓶麦酒が一本。
「マスター、さっきの方は」
「いや、良く来てくれる方なんですがね、
来るとあぁやって、皆に奢ってくれるんですよ」
「いるんですねぇ、仏様みたいな良い人って」
「いるんですよぉ、仏様みたいな良い人って」
「マスター、レモンサワーおかわり」