406声 床屋での接触

2009年02月09日

先日の事。
馴染みの床屋にいて、顔を剃っていた。
「カラン」と、鈴の乾いた音と共にドアが開く。
次の予約客が、予約時刻より少し早目に来店したようだった。
その馴染み客と主人の会話が、蒸しタオル越しに聞こえてくる。

「今年で3件目だよ」
「またですか、大丈夫ですか、調子悪そうですけど」
「いや、頭、痛いよまだ」
「そりゃ、大変ですね」
「参ったよ、結構吸ったみたいだよ」

程なく顔を剃り終え、髪を流して、散髪終了。
すると、頭痛の馴染み客は携帯電話を手に、外へ出て行った。
ブラシで、私の服に着いた毛を払っている主人が、何の気無しに話しかける。

「さっきの人ねぇ、鑑識なんですよね、ケーサツの」
「へぇー、あの、現場で指紋とか取る人」
「そうそう、それで、今年は多いみたいで大変らしいですよ」
「あー、さっき、頭痛いって」
「そう、自殺が多いみたいなんですよ、
さっきも、ワンルームマンションで硫化水素自殺の現場ですって」
「そーです、か」

会計を済まして店を出ると、直ぐ横の往来脇から、
電話に喋る人特有の、良く通る声が聞こえてきた。
背中越しに聞こえてくる声色は、やけに楽しそうだった。