食べもの話しが続く。草津へ上る街道沿い、一見店ともわからぬような、壁に蔦がまとわりついた店がある。その名を「丸晶(まるしょう)」という。
日々草津を登り下る車の数は数え切れぬほどと思うが、ふつうは通り過ぎる。僕だって、人に紹介され一緒に入るまでは、そこが店であることも気付かずにいた。狭い店内、年のいったおばさんが接客、奥では旦那さんが中華鍋を振っているようだ(数回訪れたが旦那さんの姿を見たことがない)。そして食べたラーメンや炒飯が・・めちゃくちゃうまい。「うちの旦那は、陳健民に料理を教わったのよ」とおばさん。
草津温泉には届かぬこんな場所で、蔦をまとったこんな店で、本格四川が食べられるのだ。なるほど今日食べた麻婆丼も、「本格麻婆=辛くて山椒が効いてる、だけ」という僕の認識が変わる、旨みのある“気持ちいい”辛さの麻婆だった。頂点唐辛子というハバネロ形の唐辛子が決めてらしい。そして驚くべきは「32年ラーメン」。これは、(多分)開店以来、材料を継ぎ足して継ぎ足した32年もののタレを使ったラーメンで、優しい味の奥に複雑な中華の旨みを感じる一杯。僕が知った時は30年ラーメンであったが、32年モノはそれと比べてどうかと聞かれれば・・わかんないけどね。
むかし通ってくれたお客さんは高齢で来なくなった。若い人は来ないし、暇なのよ。とおばさん。でも、忙しいのは嫌で広告の類いも大嫌い。口コミ、だけで(多分)32年やってきた小さな小さな店。「おいしかったです」と店を出ようとすると、入れ替わりで「来たよー」と年配の夫婦が入ってきた。お客はたくさん来なくとも、「あの店に行こうよ」という人たちが通う店には、不思議と寂しさを感じない。
33年ラーメンも、34年ラーメンも、食べに通いたい。

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