534声 ハイボール 前編

2009年06月17日

ガード下商店街に在る、「島田屋」は大衆食堂です。
私は週に一、二度、訪れる、言わば常連と言える存在なのですが、
正午の島田屋の店内は、その殆どの席が、常連で埋まっています。
暖簾をくぐって店内に入り、空いている席に座る迄、徐に席の顔を見渡します。
声こそ掛けないのですが、「あの親父今日も来てるな」とか、
「カツカレーか、何か良い事でもあったな」などと、無意識に暗黙の確認を行っているのです。
その無意識の所作が、常連を常連たらしめる行為だと言えます。

さて、私があの親父の事を気に掛ける様になったのは、定かではありませんが、
一ヶ月前位だったと記憶しています。
その親父は60年輩で、私が島田屋に行く正午過ぎにはもう、右斜め奥の席で、
いつもハイボールを飲んでいました。
二つある中の、通路側の椅子に座っている姿は、酷く猫背で、
着ている服から見ても、多少うらぶれた雰囲気です。
鼠色の長袖ポロシャツ、緑色のギンガムチェック柄のワイシャツ。
この二つの着回しで、スラックスは膝の抜けた、黄土色の物しか見た事がありません。

私が気に掛った点は、その親父の注文と行動です。
まず、焼き魚とハイボールを3杯。
決まってこの注文を平らげて、出て行くのです。
当然、勘定はいつも同じ、1300円。
そして行動ですが、親父が席を立って帰る時刻と言うのが、
いつも決まって、正午半なのです。
私はいつも、店内に映っているテレビで確認しているので、時刻に狂いは有りません。
或る日、この注文と行動の規則性に気付いた私は、それからと言うもの、
どうにもこのハイボール親父の事が、気に掛るようになりました。
他の常連客、店の女将さんは、知ってか知らずか素知らぬ顔で通しています。
私も、ハイボール親父が去った後にでも、誰かに聞いてみようかとも思いました。
しかし、常連たちの間に結ばれる、暗黙の不可侵条約を破る気概は、私にはありません。
そして、つい先だって、私は湧き上がる好奇心を抑えきれず、
或る行動に打って出たのです。

明日へ続く