「スタンさんの通夜に行く時、僕が彼のドキュメンタリー制作で100%力を出し切っていなかったら、行けなかったと思います」
上映後の挨拶で、学生の一人が語った。「六合ドキュメンタリー映画祭」での上映作品のひとつ、芸術家のスタン・アンダーソンさんを取材した学生である。
僕がスタンさんに会ったのは、中之条ビエンナーレがきっかけだった。彼は六合の暮坂芸術区に住んでいて、初めて行った時に見せてもらった「樹皮を紙のように漉いて、その中に猪の骨を埋め込んだ作品」にギョッとした記憶がある。芸術といっても作るカタチは人それぞれだが、スタンさんは必要なものを全て森から採取し、近年では山を分け入って作る「道」そのものが自分の作品だと語っていた。その大らかな性格と流暢な日本語で、彼を慕う町民や中之条ビエンナーレ作家も多かったと思う。
「六合の山奥で長年に渡りアメリカ人がアート作品を作っている」。その不思議は学生にもわかりやすかったようで、昨年の候補選びの際にスタンさんは外せない人になっていた。結果学生たちが作ったスタンさんのドキュメンタリー『陽春の道』は、スタンさんの生き方を通して「豊かさって何だろう」という事まで考えられる素晴らしい作品となった。
その撮影から3か月ほどしてだろうか。急な病気によりスタンさんは亡き人となってしまった。花の駅美野原の上映会場には、中之条ビエンナーレディレクターの山重さんをはじめ、スタンさんと関わりのあった方も多く足を運んでくれて、改めて彼の存在の大きさを感じたようだった。
スタンさんの事に限らず、今回学生たちがドキュメンタリーで残した六合の暮らしは、それを知る人がいなくなってしまえば、昔ばなしとなってしまう。僕は、過去の暮らしを忘れるな!と啓蒙する気はないが、過去の暮らしを知れば今がもっと豊かになる、とは確信を持って言える。それだけのヒントが、六合にはある。
皆さんのおかげで、「六合ドキュメンタリー映画祭」は無事に終わりを迎えた。作品の大部分は今後、六合のローカルテレビ「六合っこチャンネル」でも放送される予定だ。他で見られる機会も作りたい。

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