3532声 船が出るぞ

2016年07月10日

老人が通うデイサービスセンター。普段は聞こえないであろう音、大きな銅鑼(ドラ)の音が響く。70代後半か80代の男性がドシーンドシーンと銅鑼を叩いた後に

 

「おーい、船が出るぞー」

 

と声を張り上げた。それを聞いた他の老人たちは、笑ったり、関心したり。銅鑼を叩いた男性は、「むかし、船が出る時にこんな音を鳴らしたんだ」と呟いた。音が、記憶を呼び覚ました瞬間だった。

 

 

今月末より、前橋市のアーツ前橋という美術館にて「表現の森」と題された展示が行われる。アーティストが前橋にある様々な施設に足を運び、その場所にいる人たちと協働としてのアートを制作するという試みだ。

 

桐生出身の神楽太鼓奏者・石坂亥士さんと、前橋氏の振付家・山賀ざくろさんの二人は、この展示で前橋市にあるデイサービスセンターの利用者さんたちと楽器の演奏をすることになった。楽器と言っても、亥士さんがもちよる楽器は東南アジア・韓国・南米などの打楽器。なかには亀の中身をするっと抜いた甲羅の打楽器もある。

 

展示の際に、音楽の展示方法として映像が必要となったそうで、僕にお声がけいただいた。つまりは、2人のアーティストが老人たちと奏でる音楽を撮影する仕事である。春に始まりすでに5回ほど、前橋のデイサービスセンターに足を運んでいる。

 

どのような映像が良いのか、美術館展示っぽく(?)客観性のあるスマートな映像がいいのか、でもそれやり慣れてないしな、など撮影初期には悩んだりもしたが、「音を出すことによって、その人に起きる変化をみたい」というアーツ学芸員さんのひと言で、僕がずっとやってきたドキュメンタリー的なアプローチでも良いのだと開き直った。その変化の初期の印象深い瞬間が、冒頭の「船が出るぞ」だった。こういう瞬間をきちんと映像で記録できると、嬉しいのだ。

さてはてどんな映像の見せ方ができるのか・・。この音を使った試み以外にも、ひきこもり支援施設や海外移民支援施設、障害者施設や母子生活支援施設などにアーティストが足を運び、何かしらの協働作品を制作している。その総体としての展示は、興味深いに決まっている。ぜひ、足を運んでいただきたい。