737声 銀歯ギラギラ

2010年01月06日

漸く撥を買って、三味線を弾いている。
三味線の構え方も知らなきゃ、撥の持ち方も分からない。
それでも、必死になって撥で糸をペチペチ叩いていると、
時間が経つのを忘れ、三味線の音色に夢中になっている。
何だか、中学生の時に初めてフォークギターを手にした時の、新鮮な心持が甦る。
私が、何処かしらから三味線を手に入れて来て、何やら弾いている様ないない様な、
と言う事は、祖母の耳にも伝わっていた。
正月、新年の挨拶に行った時に言われたのだ。
「おばちゃんもね、三味線、お酒を飲むとよく弾いてたんだよ」
この「おばちゃん」ってのは、祖母の姉の事で、私も子供時分には、
随分と可愛がってもらった。
ヘビースモーカーで大酒飲み。
一緒に車に乗っていると、突然、「ちょっと停めて」と言って、
道端の自動販売機まで走って行く。
そして、「echo」と言う安煙草の、橙色の箱を持って帰って来る姿が、
脳裏に焼き付いている。
盆暮れ正月は、もれなく酒臭く、そう言う時には決まって小遣いをくれた。
そのおばちゃんが、酔うと三味線を弾いていた。
それも其の筈である、おばちゃんの職業は芸者だったのだから。
私は、おばちゃんが三味線を弾いていた姿を見た事は無いし、
芸者だった事実も最近知ったのだが、聞いて直ぐに納得した。
男勝りで、破天荒で、短気で、狡賢くて、酒飲みだけど、粋で優しい。
まさに、花柳界を生き抜いて来た、粋人なのであろう。
おばちゃんは、私が小学生時分に、あっさりとこの世を去ってしまったが、
今でも、ギョロギョロした目を細くして笑うおばちゃんの顔を、
記憶のスライドショーで思い出せる。
笑った顔から、銀歯のギラギラした光がこぼれ落ちていた。
「血は争えない」
年々、おばちゃん系統の隔世遺伝が顕著になってきた、私の行動。
だけれども、粋に三味線を弾きこなすには、私一代の努力では、無理かも知れない。
素質までは遺伝しなかった様である。
おばちゃんの名前は、「ヨシノ」と言うらしい。
どんな字を書くのか、聞くの忘れた。