3847声 レモンサワー

2017年06月16日

古い友人と会うため、夕方から上野へ出かけた。
アメ横あたりからはじめようと、
大統領やたきおかなど数軒覗くが、
どこも満席で早々に御徒町方面へ流れた。
こちらまでくると悠々と店を選べる。
手ごろな店に入り、焼き鳥などつついた。
駄菓子屋の粉で溶かして飲むジュースのような、
毒々しい色のサワーをがぶ飲みしていた。
この点はずっと変わらない。
 
むかし、この友人と前橋市街の硬派な焼き鳥屋の
暖簾をくぐったことがある。
店内には常連ばかりで、独特なやや重たい空気。
カウンターへ腰掛けると矢継ぎ早に、
煙の向こうの店主から「飲み物は」の鋭い声。
「び、びーる」と私。
その友人はと言えば、長考した挙句、
「カシスオレンジで」と。
その声にかぶさる勢いで、店主から、
「そんなもんあるわけなーだろ、サワーしかねぇ」
とつっこまれ、語尾にバカヤローが付かなかったところは、
店主のやさしさであろう。
圧倒された友人は「じゃ、じゃあさわーで」と難を逃れ、
私も胸をなでおろしたが、その後は煙がいっそう目にしみた。
 
この御徒町の焼き鳥屋は、毒々しい色のサワーが沢山あったので、
私もひと安心であった。
あの前橋の店で「サワー」といったら、レモンサワーなのである。
しかし、あの時の店主のつっこみは、店内全員の声であったろうな。