3914声 蝉の雨

2017年07月26日

ずーっと昔の話。
山の中にいた。
人といることに慣れない僕は
行き詰まり悶々としていた。
ふと、誰にも何も言わず
山の中に入って行った。
真夏の暑い日だった。
草のにおいが強烈だった。
坂道を登った先に
こじんまりとした畑があった。
誰もいなかった。
しばらくそこに立っていた。
あーっ
声を出しても何も起きない。
次第に声は大きくなり、
山の中で叫んでいた。
ちょっとは、泣きもした。
しばらくそうして、疲れて辞めた。
辞めたと同時にぶわーっと、
蝉の声が僕の周りを囲んだ。
雨のような、蝉の声。
蝉の声。

蝉の声。
振り返り、
山を降りて、
家に戻り、
何事もなかったかのように
麦茶を飲んだ。