3916声 美しい人

2017年07月28日

昨年に続き、アーツ前橋が行う「表現の森」(アーティストが前橋市の施設等を訪問し協働で表現を行う)の一部映像記録を担当させてもらっている。昨年は老人たちのデイケアセンターだったが、今年は特別養護、様々な事情で家にいられない老人たちが寝泊まりしている場所へ打楽器奏者の石坂亥士さん等と伺い、音を使ったワークショップを行っている。

 

目の前に差し出された小太鼓や鈴などに手を伸ばし演奏できるご老人は半数といったところか。車椅子の背もたれに寄りかかり、大太鼓の震動にも反応しない・・しなそうに見えるご老人もいる。そんな皆さんにビデオカメラを通して肉薄していくことが、スリリングでたまらない。

 

手を胸元でクロスさせ硬直させ、身動きがほとんどないおばあさんがいる。亥士さんが楽器と共に近づくと、その手がわずかに動く。その映像を見たケアの職員が「○○さんが反応しているなんて」と驚いたという話を聞いた。今日は亥士さん、いつも以上にこのおばあさんとのセッション(そう呼んでもいいと思う)に熱が入っていた。亥士さんが太鼓を叩く。おばあさんは楽器は持たないが、指を一本立てて、のど元を下から上になぞる。どこまで音に共感しているかは本人にしかわからないが、確かに二人の間には密な時間が流れていた。

 

アーツ前橋によるこの取組には、答えがない。他の特養ホームでも応用が利くような楽しいワークショップのモデルケースを作っているわけでもない。けれど、その密な時間の中には、大切なものが含まれている気がする。

 

亥士さんの太鼓が自然と弱まり、セッションは終わった。ふと、亥士さんがおばあさんの手を優しく握った。ほぼ無意識に、だったと思う。そこまでを見て、僕はそのおばあさんのことを美しいと思った。

 

表現の森