3735声 2018年1月回顧録〈其の三〉

2018年02月03日

一月後半は、なんだか落ち着かぬ日々であった。
まずは仕事で沖縄へ飛んだ。
東京の気温が連日一桁のところ、那覇では二十二、三度。
シャツ一枚でちょうどよいと思うのだが、
現地の人は薄手のダウンジャケットを着ていたり、
外国人旅行者はTシャツ一枚だったり、いずれも極端であった。
到着した日の夕方に、国際通りに程近い酒場の暖簾をくぐった。
カウンターの隅でオリオンビール片手に、
メニューの目についたつまみを注文していく。
「おすすめ」との記載があった、「魚の揚げ物」が目の前に到着した。
皿の中には、うつぼのような厳しい魚の顔があった。
魚の頭の素揚げである。
むき出しの牙のような歯をよけつつ、目玉などほじくる。
アヒージョのような味付けで、美味しい。
オリオンビールが進む。
その土地に来たから、ないしその店に入ったからには、
その土地の、その店にある麦酒をつべこべ言わず飲むべきである。と思う。
「私はアサヒが…、俺はキリンが…」などと頭ごなしに言う人があるが、
大方はその理由を聞いていて、いささかかなしくなる。
どの麦酒にも長じている点がある。
ましてや、普及している市販の麦酒であれば尚更である。
料理が麦酒の力を引き出し、麦酒が料理の力を引き出すことが往々にある。
それは、麦酒の長所をつかんでいないと分からぬことである。
などと、私は基本的に冷たい麦酒でありさえあれば美味しく飲めるのだが。
そのなことを考え箸を進めるにつれ、皿の魚の顔はだんだんおそろしい状態に。
ビールジョッキをぐいっと飲んで一息つくと、目の前の酒瓶の中のハブと目が合った。
泡盛などに手を出しているうちに、ふわふわとしてしまい、
海風に誘われるがまま、店をあとにした。