一月後半は、なんだか落ち着かぬ日々であった。
まずは仕事で沖縄へ飛んだ。
東京の気温が連日一桁のところ、那覇では二十二、三度。
シャツ一枚でちょうどよいと思うのだが、
現地の人は薄手のダウンジャケットを着ていたり、
外国人旅行者はTシャツ一枚だったり、いずれも極端であった。
到着した日の夕方に、国際通りに程近い酒場の暖簾をくぐった。
カウンターの隅でオリオンビール片手に、
メニューの目についたつまみを注文していく。
「おすすめ」との記載があった、「魚の揚げ物」が目の前に到着した。
皿の中には、うつぼのような厳しい魚の顔があった。
魚の頭の素揚げである。
むき出しの牙のような歯をよけつつ、目玉などほじくる。
アヒージョのような味付けで、美味しい。
オリオンビールが進む。
その土地に来たから、ないしその店に入ったからには、
その土地の、その店にある麦酒をつべこべ言わず飲むべきである。と思う。
「私はアサヒが…、俺はキリンが…」などと頭ごなしに言う人があるが、
大方はその理由を聞いていて、いささかかなしくなる。
どの麦酒にも長じている点がある。
ましてや、普及している市販の麦酒であれば尚更である。
料理が麦酒の力を引き出し、麦酒が料理の力を引き出すことが往々にある。
それは、麦酒の長所をつかんでいないと分からぬことである。
などと、私は基本的に冷たい麦酒でありさえあれば美味しく飲めるのだが。
そのなことを考え箸を進めるにつれ、皿の魚の顔はだんだんおそろしい状態に。
ビールジョッキをぐいっと飲んで一息つくと、目の前の酒瓶の中のハブと目が合った。
泡盛などに手を出しているうちに、ふわふわとしてしまい、
海風に誘われるがまま、店をあとにした。