3768声 芸術は遊びの極致

2018年03月08日

太田市美術館・図書館の展示は、毎回とても良い。

 

どの美術館でも、展示を決めるのは作家ではなく、美術館の学芸員等である。太田市美術館・図書館の学芸員である小金沢さんとは、中之条ビエンナーレで知り合ってからもうある程度長い仲だけど、日本画を中心に近現代美術に精通し、有名無名やテクニックうんぬん以上に作家の人間性や表現のテーマに肉薄し、どう興味深く見せられるかに苦心できる・・つまりは美術と共に生きている人なのである。彼の手にかかると、一人の作家を取り上げるにしてもそこに重層感が生まれる。

 

4/8まで行われているのは「生誕90年正田壤 芸術は遊びの極致」。地元太田で活動を続けた画家・正田壤さんの個展である。彼はすでに他界している。長く続けることで画家には何度かの変換期が訪れるが、この展示でもまさに正田さんの絵画の変遷が見え、山口薫氏など、正田さんがその時代群馬にいたからこそ交流をもった画家とのやりとりもコンパクトにまとめられていた。

 

展示を見終わって、別の職員の方が「僕は太田市で育ったんですが、通う小学校にも正田さんの絵がありました」といういい話をしてくれた。また、個人的に一番良かったのは、きれいにまとめられたこの展示の図録に正田さんのアトリエの写真が数点あり、そこに手で潰された発泡酒の缶が山積みになっていることを発見した事だった。

 

職業画家として生計を立てることは難しい。正田さんの絵も、地元では学校に飾られたり、市内の会館の幕に使われるなど日は浴びるものの、全国的に有名な画家、というくくりに入る方ではない。太田市美術館がその画家に光を当てたことも良いし、なにより安い発泡酒を片手に「芸術は遊びの極致」と呟きながら絵を描き続けた正田さんは、とてもチャーミングな方だったに違いない。