3781声 月の湯

2018年03月21日

中之条町から渋川市へ向かう途中、中之条町市城と呼ばれる町の東部の吾妻川添いに「月の湯」のセットはあった。

 

それは1996年公開『眠る男』のセットだった。撮影後は資料として伊参スタジオ公園に移築されたが、いまはもうない。僕は撮影当時中学生で、市城には同級生がいたので、河原で「警ドロ」(警察役と泥棒役に分かれて行う鬼ごっこみたいなもの)をして遊んでいた。「月の湯」のセットは多分もう撮影が終わった後で、もぬけの殻になったセットの中に入り(映画では、外見だけをそこに作り、中は県内の法師温泉を使った)よくはわからないけど興奮したことを覚えている。

 

ここでも何度か書いたかもしれないけど、小栗康平によって『眠る男』が撮影され、その直後に山崎まさよし主演の『月とキャベツ』が撮影され、そのファンが全国から集まったので映画資料を展示するために木造校舎が残され、「伊参スタジオ」と命名され、やがてそこで映画祭が行われるようになり、僕は今その実行委員長。また一方では『眠る男』で見事な屏風絵を描いた平松礼二氏が伊参スタジオで絵画教室のようなものを開き、そこに来たのが山重徹夫さんで、彼を中心にして「中之条ビエンナーレ」が立ち上がり、今や映画祭を越えて(ちょっと悲しいかな)「中之条町はアートの町」と全国的に認知されるまでになった。

 

映画は、映画そのものとしての意味で語られることが多いが、群馬県人口50万人記念で作られた映画『眠る男』は種となり、今やその幹は太くたくさんの葉や花を蓄えるまでになった。その行く末を見守りたい。