3974声 虫の音

2018年10月01日

「明日は全滅だな」
布団に寝そべってぼんやりと考えていた。
老朽化しているこの貸家は、いよよ吹き飛ばされるのではなかろうかというほど、
揺れ、軋んでいる。
所々の隙間風が奇声とも嬌声ともつかぬ、薄気味悪い音を始終たてている。
そんな調子で目覚め悪く、されど台風一過で澄み渡った青空の下、朝の駅へ向かった。
予想に反して全滅はしておらず、しぶしぶ大混雑の総武線に乗り込んだ。
「すし詰め状態」とは言うけれど、こんな状態ではすしは原型をとどめず、
押しつぶされてひしゃげた団子状態になってしまうだろう。
乗り換え駅に着くと、団子を千切るように人波が車外へ押出された。
汗拭き、しばし息を整えつつホームに呆然と立ち尽くし、
その団子列車が去るのを眺めていた。
そういえば、昨夜の嵐の中、ふと風音の隙間に虫の音が聞こえた。
暴風雨の音の中、なんとも涼やかな音色であった。