967声 遠くの桑原

2010年08月24日

遠くの空で、未だゴロゴロ言っている声が聞こえる。
先程まで、ひとしきり暴れまわっていた雷様は、
どうやら赤城山の方へ河岸を変えた模様。
幼き頃は、雷が随分と怖かった。
夏休みで祖母の家へ泊まり行っていた、子供時分。
夕方、私が轟く雷鳴に怯えて、部屋の隅でうずくまっていると、
決まって祖母が、声をかけてくれた。
「とーくのくわばら、とーくのくわばら」
この呪文の様な言葉を唱えると、雷様が早く違う場所へ行ってくれるのだと言うのだ。
藁をも掴む思いで、祖母と一緒にその呪文を唱えていた思い出がある。
当時はその呪文の意味など、皆目見当もつかなかった。
しかし、大人になった今から思えば、言葉から、大体の意味は推察できる。
この、「とーくのくわばら」ってのは、「遠くの桑原」の意ではあるまいか。
つまり、養蚕が盛んなりし頃、桑原ってのは、
群馬の田舎へ行けば必ず目にする光景であった。
雷様に対し、どこか遠くにある、だだっ広い桑原の方へでも、どうか行って下さい。
と言う一種の「おまじない」なのであろう。
今でも、群馬に生まれ育った子供たちは、
このまじないの言葉を言っているのだろうか。
もっとも、巷の小、中学校の多くは、今週末ないしは来週初めの始業式と共に、
新学期が始まる。
子供たちにとって、遠くの桑原へ行って貰いたいのは、
雷様ではなく、やり残しの宿題の方であろう。