4661声 海と山のオムレツ

2021年11月08日

どこからそんな話になったのか覚えていないのだが、「東吾妻町にあれだけいた南相馬からの避難者がいなくなった理由の1つとして、彼らは郷土の料理の味を覚えていてそれを求めて帰ったのではないか」という話をした。もとは震災直後のイベントで堀澤さんが言っていたことの受け売りだが、僕がその後妄想を膨らませて書いた小説モドキで書いた内容でもあった。

 

それを聞いて、その人は「海と山のオムレツ」(カルミネ・アバーテ著)という本を貸してくれた。その本の冒頭には「料理をし、それを共に食すという行為は、迎え入れることを意味する」という言葉が添えてあった。南イタリアに育ち、オリーブオイルと大蒜と赤唐辛子をベースにした豊かな食で育った著者が、ドイツで教鞭をとることになり、息子と共に故郷に戻るまでの地方地方での食と思い出を鮮やかに書いた自伝的小説だった。出てくる料理はどれも美味しそうで、はじめ過剰なまでに愛していた個性的な父親がやがてマイペースすぎて面倒な存在になり、最後はそれも受け入れて愛おしい存在になるという関係性の変化も良かった。何より人から勧めてもらった本を読むこと自体が久しぶりだった。

 

読了し、さて僕にとっての郷里の味は何だろうなと考える。うめまつの焼きそばか、竹の家のソースかつ丼か、もうなくなってしまった若竹のコロッケか。どれも物語性には欠ける。母親の味と言っても、バーモントカレーかハウスのシチューが浮かぶのみ。悩んでしまった。まあいいか、今から探すのも(思い出すのも)楽しいじゃないか。