5093声 喜びの名残の中で

2022年04月19日

5/8(日)まで開催されている前橋文学館「生きて在ることの静かな明るさ-第29回萩原朔太郎賞受賞者 岸田将幸展」に合わせて、配信のみで行われた岸田将幸の詩の朗読会の別映像の撮影・編集を担当した。

 

もう29回を数える萩原朔太郎賞は、前橋の詩人・萩原朔太郎の業績を伝え、その年の最も優れた現代詩作品に送られる賞。第一回の谷川俊太郎氏からはじまり、前回は新進気鋭の若手、マーサ・ナカムラさんが受賞。マーサさんの詩は現実と異世界を自由に横断するような詩でとても印象に残った。そして今回は岸田将幸さん。お会いはしなかったが僕と同い年だという。詩との出会いが尾崎豊やブルーハーツだったと語るあたりは世代的に僕とドンピシャ。新聞記者から転身し農家へ。それら仕事に就きながら詩作を続けてきた、骨太感のある詩人である。

 

農家である、ということが彼の詩に大きな影響を与えていることは疑いようもない。

 

「ごらん、これがほんとうの正午の火照り。きみに影をつくる、生きて在ることの静かな明るさ」(「月あかり」)

 

というくだりなどは、畑で見つけた言葉がそのまま人の生き様を表すまでに昇華されている。(僕の理解では)なかなか難解な詩が多い中で、読書ではなくリーディングという形で詩に触れると、入ってくる言葉もある。個人的には同詩の中にある

 

「生まれてきた驚きが喜びのことであるように。そして、喜びの名残の中で君が年老いていけるように」

 

というくだりが、撮影時の僕にはぐっと刺さった。全くの個人解釈だが、1つの確かな喜びがあればその名残で人は死ぬまで生きていけるのだという温かさと、生まれてきた時の(自分者や周囲の)喜びこそが1番で、人生のその後の喜びなんてものはたいしたものではないのだという冷たさまで感じたのだ。もちろんそれは解釈違いな気がするし、詩はそもそもそういうもの(個人解釈)で良いのではないかとも思う。

 

詩からは遠くても田畑に気持ちが向いている方や、今時代の真っ当さを求める人にはぜひとも見て欲しい動画であり、会期終了間際ではあるが、ぜひとも前橋文学館へ足を運んでいただきたいと思う。

 

岸田将幸『風の領分』を読む