5198声 ラムネ片手に

2022年08月02日

「吟行」をしている。どこかに出かけて詩歌をつくることだが、この炎天下でも、おそよ「逍遥」などと程遠い形相になりつつ、そこらをほっつき歩いて地べたの蟻などを眺めている。私よりも何倍も蟻の方が働いているなぁ、などと手にもっているコーラをすこしおすそ分けしたり。効率の悪い取り組み方だとは思う。冷房の効いた部屋で団扇を仰ぎつつ歳時記をめくっていれば良いのだ。しかし、先週のことであるが、午後からの定例の句会の前に、地元の商店街を吟行していた。奥へ進むにつれ、すれ違うのは何やら浴衣の人が多くなってきたと思ったら、小さな鎮守で祭が開催されていた。この日の情報は事前にGoogleなどで調べていたが、全くヒットしなかった。もろもろ考慮したであろう、主催である商店街の方々の苦労が垣間見える気がした。祭の様子は盛況で、ステージでは地元のバンドが演奏し、境内におさまりきらぬほど、ヨーヨー釣りに各種焼き物の屋台にと、コロナ前に戻ったような光景であった。人波に揉まれつつラムネ片手に句帳をめくる時間は至福であった。こういうことがあるから、吟行はやめられない。現実の五感を働かせた上での想像は、やはり貴重である。この数年、こんな当たり前の機会を失ってきたことは、改めて大きな損失と感じた。