5257声 実を以て

2022年09月30日

独立して2か月が過ぎた。早い。仕事が遅いこともあるが途切れず、まだあれこれ納めなくてはいけないのでとても有難い状態なのだろう。けれどなんとなくやる気が立ち上がらない。明日は早起きして太田での撮影があり、ふと前橋シネマハウスを調べたら、アフガニスタンで活躍した故・中村哲さんのドキュメンタリーを上映している。観て、泊まって、即明日現場に行けば良いじゃないかとこじつけた(こういうことも自営ならではなのだろうな)。

 

テレビの報道などを通して中村さんのことを知っている方は多いと思う。映画はテレビ的な作りであったが、中村さんがもともとは中東の山に惹かれて現地を訪れ、医療を求める人たちを振り切って帰国したことを悔いていたこと、テレビでも印象が大きかった、見渡す限りの荒野を水路開拓によって緑地に変え、けれど2022年の今激しい干ばつで緑地が元に戻っていっていること(中村さんなき後も、技術を継いだ現地人が作業にあたっていること)など、はじめて知る事もあった。欲を言えば、「カメラ回っています、中村さんお願いします」という撮影ではない、自然体の中村さんが見てみたかった。

 

僕は、中村さんに纏わることを見る時にもう1つフィルターが入る。それは、群馬高専時代に同じ学年で寮生だった鈴木学くんの存在だ。彼は高専卒業後、進学を経て、中村さんを支援するペシャワール会に参加。バングラディッシュで現地語も駆使しながら学んだ土木工学と現地応用とで水路事業の大事な部分に加担した。その後帰国した際にたまたま会う機会があり、彼の人生の選択と逞しさに驚いた。一緒に露天風呂に入り、彼が両手で湯をすくって「この湯が汚れているとするだろう、ろ過したり薬剤加えたりしてきれいにしようとするけど、そうじゃない、この湯の源泉まで辿ってそこからきれいにしたいんだよ俺は」と話した光景は25年くらい過ぎた今もなんとなく思い出すことができる。彼はもうずっと前に四国に家を構え、家族で農業を営んでいるという話を聞いた。

 

さて、中村さんのドキュメンタリーを見て「俺もやるぞ!」と士気が上がったかと言えばそうでもない。若ければ違ったかな、嫌な感じに年をとってしまった。けれどなんとなくぼくは「発奮しながら0から1を立ち上げる」性格ではなく、「何かやらなければいけない状況下に置かれると、やる」性格なんだということが再認識できた。さすがにバングラディッシュに投げ込まれたら生きていく自信はないが、今接点があるあの人やこの人が何かやろうとしている時に、寄り添える仕事をしたい。ぼちぼちやっていく。そしてなんとなく、映画の最後で語られた中村さんの言葉を置くと終わった感じになるので、今月の投稿をこの一言にて終えたい。

 

絶望的な状況にあってこそ、実を以て報いたいと思います。(中村哲)