5310声 マネジメントとガバナンス

2022年12月22日

群馬交響楽団のマネージャーをしていた丸山勝廣氏の著書のどこかに「オーケストラを運営できれば大統領になれる」という趣旨のことがあったと記憶している。

わたしは「オーケストラ」を「山車の巡行」に置き換えてもいえるのではないかと密かにおもっている。別に密かにする必要もないのだが。

今日は、組織の運営について少し考えを整理したいとおもいオーケストラと山車巡行の話題から入ったのだが、まずは、「組織は虚構である」ということから確認したい。

ユヴァル・ノア・ハラリによるとサピエンス(ホモ・サピエンス=人間)が地球を支配できたのは虚構を信じることができるからだという。ハラリが「認知革命」と呼ぶ、この脳の使い方をマスターしたサピエンスは、虚構を信じる力によって、見ず知らずの人と協力することができ、やがて地球の支配者となった。

神話、宗教、官僚制、帝国などはみな虚構である。虚構を信じることが出来る能力の賜物である。そして、最強の虚構、征服者ともいえるのが、現代のほぼ誰もが信じる宗教ともいえる「貨幣」だという。(貨幣については改めて整理したいとおもう。)

それはそれとして、その虚構の一つに「法人」がある。わかりやすい例では、株式会社などの企業などがそれだろう。株式会社は、虚構である法人と貨幣が結びついたもっとも典型的な形だろう。一番わかりやすい「組織」ともいえる。

やっと組織の話になってきた。

日本は資本主義の国であるので、組織論も株式会社を中心としたものが多く、マネジメント(経営管理)、とかコーポレートガバナンス(企業統治)についての本もたくさん出ている。キャッシュフロー経営だとか、目標管理制度だとか、ビジョナリーだとか、成果主義だとか、ジョブ型人事だとか・・・・。ピーター・ドラッカーを筆頭にありすぎて読み切れない。

珍しいところでは『失敗の本質』のような、旧日本軍の失敗を組織論から論じたものもある。だが、わたしがみなさんにおすすめした組織論の本は『「世界征服」は可能か?』(岡田斗司夫)だ。

映画やアニメに出て来る悪の組織(まさに虚構)を例に挙げ、組織論を語る。

うろ覚えだが、ガッチャマンのギャラクターや仮面ライダーのショッカーなどが語られていたようにおもう。ガッチャマンのギャラクターは、その構成員だけでなく、構成員の家族まで作品のなかに登場していて、かなりしっかりした組織であることを感じるが、なぜか非合法のことに手を出している「悪の組織」だ。

また、仮面ライダーでは、悪の側はすごい科学技術と資金を持つ「組織」なのに、仮面ライダーはそこを裏切った個人(協力者が皆無とはいえないが、ほぼライダー頼み)だったりすることも面白い。

どちらの悪の組織も、高い技術と豊富な資金がありながら、非合法のことをして世界征服を目指すという、なぞの行動をとる。素晴らしい技術と資金を活用すれば、合法的に、もっと楽に稼いで、儲けて、楽しむことができるだろうに。なぜか、傍若無人な非合法の悪事を行い、ヒーローに見つかってしまい、それらと戦わなくてはいけなくなる。実にもったいない。

で、もうひとつ悪の組織に共通するのが、恐怖によるマネジメントだ。または、恐怖による組織支配とでもいおうか。だいたい絶対的な力をもった(文字通り腕力だったりする)権力者がいて、その下に凄腕の幹部たちがいる。さらにその下にそこそこの実力の小ボスがいて、物語の序盤では、それらの小ボスが雑魚を率いてヒーローと戦わされる。絶対権力者と恐怖。これが悪の組織にはつきものだ。

力のあるものが、その力を背景として恐怖によって統治している組織が悪の組織だ、ともいえる。

やっとマネジメントとガバナンスらしい話になってきた。

恐怖による支配とは、ようするに、悪の組織では失敗するとお仕置きが待っているのである。しかも、多くの場合そのお仕置きは死を意味する。仮面ライダーにやられなくても、組織のお仕置き、あるいは罰によって始末されてしまう怪人(改造人間?)は少なくなかったりする。

この本が書かれたころにはなかった作品『鬼滅の刃』の中でも鬼たちは恐怖によって支配されている。ヒーロー側である鬼殺隊にやられるのと負けないくらい多くの鬼が、ラスボスである鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)や幹部の鬼(「上弦の月」とか「下弦の月」)にやられてしまう。もっとも、鬼舞辻無惨の目的は、世界征服ではなかったが。

また、悪の組織では、そのときの目標がなんであれ、手段に非合法なものを選択するため、組織のなかに卑怯なことをよしとする文化が育まれる。悪の組織のなかに裏切りやだまし討ちがまん延するのはこのためだとおもう。

極論だが、悪の組織では、組織のマネジメントや統治に「法」が使えなくなるのである。「法」とは、法律というよりは「論理的なきまり」ぐらいに考えてもらえばいいとおもう。「法」ではなく、「力」と「「恐怖」で治める組織なのだ。

こういう組織では、力を持つ者の「都合」が優先される。権力者の都合が法にとってかわる。

そんな組織が成り立つのか?ともおもうが、北朝鮮やロシアの例もあるので、事実は小説よりも奇なりである。