東吾妻の新巻という地区に「new roll」というギャラリーがある。新巻だからnew roll。そのオーナーは彫刻家の西島雄志さんで、西島さんは「中之条ビエンナーレ」を機に吾妻に移住してきた作家。前回のビエンナーレのポスターで、銀色の狼の作品を目にした人も多いと思うが、西島さんは針金を渦状に巻いて、それを溶接し、動物や人物の形に造形する、という独自の手法を用いる作家である。
「new roll」では、西島さんの作品はもちろん、彼が声をかけて、または作家の方から西島さんに声をかけて、彫刻から絵画まで、様々な作品の展示・販売が行われている。中之条ビエンナーレに参加経験がある作家が多く、ビエンナーレがない時もそのようにアートに触れられるので、展示が変わるごとに足を運ぶ常連さんも多い。僕も、だいたいは行って作品を見ている(来月ビエントアーツギャラリーでの展示が決まっている春田美咲さんの小作品はnew rollで購入もし、事務所に飾ってよく眺めている)。
24日からは「顔と風景」というタイトルで、藤波洋平さんと星野博美さんの絵画展がはじまった(4/2までの金土日のみ。詳しくは)。星野博美は中之条ビエンナーレ関連としては初期の移住作家で、農業に携わりながら景色や身近な人を描く(あるいは貼り絵)作風。今回も中之条町や東吾妻町近辺の景色や、そこに住む人たちの絵が並んでいた。
僕は仕事柄、アート関連の人たちのSNSの投稿を目にすることが多いのだが、東京(?)ではアートバブルのような状態でもあるらしい。若い作家であっても、その絵画や彫刻に特出したものがあれば(映えることも条件かもしれない)高値で売買をされている。そういった作品を作る作家、資産運用も含めてそれら作品を買う人たち、そういう構造は確かに存在する。その一方で、世間一般的にメジャーではなくても、アートだけで食えなくても、作品を作り続けている作家はたくさんいるわけで、彼らが作る作品は決して劣っているわけではない。作られる場所・評価される場所が違うというだけだ。
「顔と風景」展の中に、中之条ビエンナーレがはじまったころ、まだ移住作家たちの肩身が狭く、そんな時でも家に招き入れて美味しいものを食べさせることを日常的に行っていた斉藤さん夫婦の絵があった。ビエンナーレディレクターの山重さんや星野さんに混じって、ビエンナーレスタッフでもないのに僕も何度も行って美味しいごはんをごちそうになった。その絵には、大げさに言えば15年におよぶ作家と町民・土地との関係性が凝縮されていた(そう思えるのは、僕が背景を知っているからではあるが)。
時の評価や名声を含む作品よりも、作り手の人となりがわかるような、想いを含む作品の方が僕にはしっくりくる。