5819声 悪は存在しない

2024年05月13日

今一番注目される日本の映画監督は?という問いに対しては濱口竜介と答える時代が来ていると思う。と言っても、過去でいうところの黒澤明や北野武のように日本全国みんな知っている、という名ではない。それは映画が国民共通のメディアではなくなってしまったこともあるのだとは思うが、数年前までは濱口監督も「知る人ぞ知る」存在であった。けれど、日本国民が認める前に、『ドライブ・マイ・カー』で2022年のアメリカアカデミー賞の国際長編映画賞を受賞、最新作『悪は存在しない』は2023年のヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した。海外が認めたものに日本人は弱いが、彼は本物だ。

近年作はすべて映画館で観ているので、この日もシネマテークたかさきで『悪は存在しない』を観た。濱口作品では、紋切型のドラマが展開することはなく、撮影方法や役者の演技も含めて<総合芸術としての映画>が展開される。けれど、それが鼻につく、ということではなくただシーンとして、ドラマとしても面白くそれはつまり映画に関する高度な技術が等身大で出せる、という職人技なのだと思う。食通も、普通の人もみなうなる職人の鮨、のような映画。

映画の内容についてここに一言も書いていないが、これからも濱口作品は観続けるだろうな、という映画であった。