この日は、会社に行き玄関前に置いたクーラーボックスを開いた。そこには手書きのメモで感謝の言葉が綴られていた。前日八ッ場ダムへ行ったので会社にいることができず、クーラーボックス経由でDVDをお渡ししたのだが、そのお礼が書かれたメモだった。
DVDの内容は、先日撮影し編集した吉岡中学校文芸部の発表の様子を収めたもの。昨年に続き今年も、顔見知りとなった先生から学校の文化祭で流す映像の制作を頼まれた。仕事の大小かまわず引き受けてそれでずるずる色々な仕事が終わらないのは悪い癖と思いつつも、先生のハートが熱く生徒たちのやる気もあるこの撮影は今年も引き受けた。
発表のメインは、中学生7人ほどによる「ちいちゃんのかげおくり」(あまんきみこ著)であった。僕も小学生の時に教科書で読んだ話で、これを読んでくれているあなたもきっと記憶にあるであろう有名は話。空襲により家族を失うちいちゃんが、過去家族でやったかげおくり(よく晴れた日に地面に映る影をまばたきせずにじっと見て、そのまま青空をみると影のシルエットが空に浮かぶ、という人体の不思議を使った遊び)を思い出すという悲しい話である。朗読のための練習時間はそれほどなかったかもしれないが、熱演だった。
それを撮影した後日、自分でも覚えていないぶりくらいにかげおくりをやってみた。両手を頭上で合わせ、「白鶴、まる」みたいなわっかを作る(それがわかる人は昭和を生きた人)。この話を読んだ小学生の頃も、同じポーズのかげを空に送った気がする。この男、成長がない。