1245声 わたしの腐海

2011年05月29日

朝から土砂降り。
であった、窓を開けて、軒を打つ雨音を聞いていると、
映画「七人の侍」が思い起こされた。
時代劇には、土砂降りのシーンが多い、気がする。

梅雨の空は暗く陰鬱な印象だが、秋雨の様な、さみしさがない。
庭では、雨に打たれながらも、雀等が遊んでいるし、
山帽子の樹など、雪を纏ったように映えている。
万象が夏の気配に、浮かれている様子。

この、そこはかとなく陽気な空気はよいのだが、
油断ならないのが陰気な空気、なのである。
陰気な空気、ってのは、この湿度の高くじめじめとした空気で、
これがもたらすものは、手強い、黴。

毎年この時期になると、靴箱にしまってある革靴には、
ことごとく、黴が生えてしまう。
ミンクオイルなど塗って、しまってある靴などはもう、
黴からは逃れられない。
黴の生えてしまった靴は、温床となり次々に黴を培養し、
やがて菌を撒き散らしてゆく。
書いていて気持悪くなって来たが、実際この現象が、
我が家の靴箱で起こっている。

たまには、風を当てたり、日に干したりしているのだが、
一度、黴の魔の手に侵された革と言うのは、
容易に菌と手を切れない。
洗ったり、拭いたり、干したりするのだが、
雨が降り続くと、やがてそれが、息を吹き返してしまう。

靴だけなら、まだ心配する事はない。
十代の終わりに、日当たりも風通しも悪い、六畳一間に住んでいた。
その時である、私が本当に黴の恐ろしさを知ったのは。
梅雨の時期、やはり、黴が生えた。
「生えた」、と言うか、「涌いた」と言った方が的確かも知れぬ。
靴箱の靴は、勿論の事。
敷布団に掛け布団、風呂場に便所に台所。
洗濯機の中の洗濯槽や、大切にしている、書籍類に至るまで、
黴の侵攻に抗う術がなかった。
風の谷のナウシカで言う、「腐海」状態、なのである、部屋全体が。

そんな部屋に住んでいた当時から、
特に目立って健康を害する事も無く、現在に至っている。
しかし、もしかしたら、私の肺の中に、黴の菌が棲んでいるかも知れぬ。
まさか、もう脳が黴に侵されているから、こんな人間に…。

【天候】
朝から雨足強し。
夜半まで降り続き、その後、小雨。