朝から土砂降り。
であった、窓を開けて、軒を打つ雨音を聞いていると、
映画「七人の侍」が思い起こされた。
時代劇には、土砂降りのシーンが多い、気がする。
梅雨の空は暗く陰鬱な印象だが、秋雨の様な、さみしさがない。
庭では、雨に打たれながらも、雀等が遊んでいるし、
山帽子の樹など、雪を纏ったように映えている。
万象が夏の気配に、浮かれている様子。
この、そこはかとなく陽気な空気はよいのだが、
油断ならないのが陰気な空気、なのである。
陰気な空気、ってのは、この湿度の高くじめじめとした空気で、
これがもたらすものは、手強い、黴。
毎年この時期になると、靴箱にしまってある革靴には、
ことごとく、黴が生えてしまう。
ミンクオイルなど塗って、しまってある靴などはもう、
黴からは逃れられない。
黴の生えてしまった靴は、温床となり次々に黴を培養し、
やがて菌を撒き散らしてゆく。
書いていて気持悪くなって来たが、実際この現象が、
我が家の靴箱で起こっている。
たまには、風を当てたり、日に干したりしているのだが、
一度、黴の魔の手に侵された革と言うのは、
容易に菌と手を切れない。
洗ったり、拭いたり、干したりするのだが、
雨が降り続くと、やがてそれが、息を吹き返してしまう。
靴だけなら、まだ心配する事はない。
十代の終わりに、日当たりも風通しも悪い、六畳一間に住んでいた。
その時である、私が本当に黴の恐ろしさを知ったのは。
梅雨の時期、やはり、黴が生えた。
「生えた」、と言うか、「涌いた」と言った方が的確かも知れぬ。
靴箱の靴は、勿論の事。
敷布団に掛け布団、風呂場に便所に台所。
洗濯機の中の洗濯槽や、大切にしている、書籍類に至るまで、
黴の侵攻に抗う術がなかった。
風の谷のナウシカで言う、「腐海」状態、なのである、部屋全体が。
そんな部屋に住んでいた当時から、
特に目立って健康を害する事も無く、現在に至っている。
しかし、もしかしたら、私の肺の中に、黴の菌が棲んでいるかも知れぬ。
まさか、もう脳が黴に侵されているから、こんな人間に…。
【天候】
朝から雨足強し。
夜半まで降り続き、その後、小雨。