1260声 真夜中のゲジ

2011年06月13日

「ぎょわ」
真夜中に呻き声をあげているのは、私、である。
部屋の戸から洩れる光では、よく確認できぬが、たしかにそこに、いる。
壁に貼り付いている、物体の全貌を明らかにしようと、電気のスイッチを押す。
目の前が白らじんで、だんだん慣れてくる視力で確認しようとするが、
何やら、奴さん、音も無く動いては一時停止。
動いては停止、を繰り返している様子。
停止した所で、顔を近づけて凝視すると、それは紛れも無く、
「ゲジゲジ」
であった。

梅雨のこの時期。
ナメクジとゲジゲジが、頻繁に出没する。
雨降りの日が続くと、ナメクジの出現率が高いが、それに伴って、
ゲジゲジも姿を現す。

ナメクジの方は、移動速度が遅いので、何とか余裕を持って対応できる。
しかし、このゲジゲジとなると、移動速度が速いので、
アタフタとうろたえてしまう。
しかも、この長い触覚や不均一な三十本の足が、一斉に蠢くと言う異体。
この奇妙な形を見ると、一瞬、戦意喪失してしまう。

それでも、今宵の安息の為、
「うらみつらみはございませんが、渡世の義理、お命…」
などと、「唐獅子牡丹」のワンシーンを演じていたら、奴さん。
「ツツツツ」っと、洗面台の脇へ入り込んでしまった。

慌てて、どうしたものかと思い、咄嗟に、
その隙間へ大きく息を吹きかけたら、奴さん。
驚いて、出てきやがった。
そこへ、一撃。
ったって、素手で出来る筈も無く、近くにかけてあったタオルを引き抜いて、
それを丸めて、「ドスン」と、奴さんめがけて垂直落下。
勝負あり。
せめて、ささやかな供養をしてやるかと、思った矢先。
丸めた白タオルの脇から、「ツツツツ」と、奴さんが駆け上がって来て、
タオルを鷲掴みにしている手の甲を、登って行くではないか。

またもや、「ぎょわあああ」っと、今度は完全に理性を失って、
タオルを放り投げて、私が遁走。
数分経ってから、洗面所へ戻って見ると、奴さんの姿は無い。
置き去りにされたタオルを摘み上げて見ても、気配すら感じない。
その晩は、部屋の扉を固く閉ざして、そのまま寝てしまった。
そして今晩、そろそろ、洗面所へ行ってみようと思う。

【天候】
朝より曇り。
蒸し暑いが、夕方に一時強い通り雨。
その後は大部、暑さが和らいだ。