1280声 西日と調和

2011年07月03日

数ヵ月ぶりに、県外の銭湯へ出掛けた。
場所は熊谷市、である。

熊谷市には、現在三軒の伝統銭湯があり、
その中の二軒をはしご湯して来た。
もう一軒は、日曜定休なので、断念。

この二軒には、一度来た事があったが、どちらも盛況な故、
写真撮影はせずに帰って来た。
今回は、一番湯客となるべく、開店時間目がけて訪問した。
まずは、駅近くの「桜湯」。
往来を歩いて行くと、ひらひらと、涼しげに揺れる白暖簾が見えて来た。
「もう暖簾が出ている」
と、いささか焦ったが、前回、春に来た際は、紺暖簾だった事を思い出していた。
これが、歳時記で言うところの「夏暖簾」なのかな、と思った。

番台のおやっさんへお願いし、貸切状態の浴室を手短に撮影した。
男女へかかる大きなペンキ絵は、女湯の方に富士山があるようだった。
句を捻りながら、湯船に浸かっているが、もう次の銭湯が気にかかって、
一向に集中できない。

そそくさと辞して、次の「見晴湯」を目指す。
電線が、長い影を落としている路地裏を歩き、早速、見晴湯の敷居を跨ぎ靴を脱ぐ。
浴室内は、地元の湯客で盛況。
ならば、ここで一息。
風呂前の瓶牛乳をやりつつ、新聞に目を通す。
見晴湯には、男女の浴室にかかる壮大なペンキ絵がある。
富士山の景だが、この西日の当たる時間はことにそれが、美しい。
図柄をよく見れば、岬の松の一本一本に影が生まれている。
勿論それは、「絵」の影なのであるが、入り込む西日と見事に調和している。
芸術性と大衆性が程良く調和した、ペンキ絵師の見事な仕事である。

写真撮影は控え目に、風呂から上がってサイダーを飲んで、帰路へ着いた。
一度しか来た事が無いが、何だあろうか。
あの、銭湯の湯の匂いから呼び起される、懐かしさと安心感は。
そして、見知らぬ土地の湯屋で過ごす、夕暮時の不思議な時間は。

【天候】
曇りがちなる梅雨晴れ。
ひねもす、蒸し暑し。