数ヵ月ぶりに、県外の銭湯へ出掛けた。
場所は熊谷市、である。
熊谷市には、現在三軒の伝統銭湯があり、
その中の二軒をはしご湯して来た。
もう一軒は、日曜定休なので、断念。
この二軒には、一度来た事があったが、どちらも盛況な故、
写真撮影はせずに帰って来た。
今回は、一番湯客となるべく、開店時間目がけて訪問した。
まずは、駅近くの「桜湯」。
往来を歩いて行くと、ひらひらと、涼しげに揺れる白暖簾が見えて来た。
「もう暖簾が出ている」
と、いささか焦ったが、前回、春に来た際は、紺暖簾だった事を思い出していた。
これが、歳時記で言うところの「夏暖簾」なのかな、と思った。
番台のおやっさんへお願いし、貸切状態の浴室を手短に撮影した。
男女へかかる大きなペンキ絵は、女湯の方に富士山があるようだった。
句を捻りながら、湯船に浸かっているが、もう次の銭湯が気にかかって、
一向に集中できない。
そそくさと辞して、次の「見晴湯」を目指す。
電線が、長い影を落としている路地裏を歩き、早速、見晴湯の敷居を跨ぎ靴を脱ぐ。
浴室内は、地元の湯客で盛況。
ならば、ここで一息。
風呂前の瓶牛乳をやりつつ、新聞に目を通す。
見晴湯には、男女の浴室にかかる壮大なペンキ絵がある。
富士山の景だが、この西日の当たる時間はことにそれが、美しい。
図柄をよく見れば、岬の松の一本一本に影が生まれている。
勿論それは、「絵」の影なのであるが、入り込む西日と見事に調和している。
芸術性と大衆性が程良く調和した、ペンキ絵師の見事な仕事である。
写真撮影は控え目に、風呂から上がってサイダーを飲んで、帰路へ着いた。
一度しか来た事が無いが、何だあろうか。
あの、銭湯の湯の匂いから呼び起される、懐かしさと安心感は。
そして、見知らぬ土地の湯屋で過ごす、夕暮時の不思議な時間は。
【天候】
曇りがちなる梅雨晴れ。
ひねもす、蒸し暑し。