1328声 蝉掃除

2011年08月20日

一雨来たら、もうすっかり秋めいてしまった。
秋雨に濡れたアスファルトを歩いていた、街の夕暮時。
今日は何故か、八王子の街を思い出した。
大都会と言うほど雑多でなく、さりとて、地方都市よりも華やかな街の色。
これから、あの寂しい八高線に揺られ、高崎方面へと帰らねばならぬ。
と言う、あの郷愁を。

話は飛んで、私は学生時分、埼玉県の小都市に独り暮らしをしていた時期がある。
住んでいた三階建てのアパートの前には、大きなカヤの大樹があった。
三階にある私の部屋。
そのベランダには、毎年、晩夏になると蝉の死骸が大量に転がっていた。
目の前にある、大カヤから飛んで来るのである。
時には、網戸に止まって大声で鳴く奴もおり、
蝉たちとは毎年、一進一退の攻防線を繰り広げていた。

キリが無いので、夏の間はしばしば放っておくのだが、
秋口になるとそうもいかず、白く干からびた蝉の死骸を掃除する。
ビニール袋にそれを入れていると、得も言われぬ寂しさにとらわれる。
死んでいるかと思えば、一寸触ると鳴き出す奴もおり、
転がりながら鳴いている姿が、とても哀れに見えた。

蝉掃除を終えると、その年の私の夏が終わる。
そして、寂しい秋が訪れる。
丁度、八王子の街をほっつき歩いていた時分である。
いまの私は、蝉掃除はしなくても良い生活だが、
丁度、今時期は、あの部屋の蝉掃除の時期だと思った。
いまでも誰か、あの部屋で蝉掃除をしているのかしら。
そして、あの寂しさ、あの郷愁を、感じているのかしら。

【天候】
曇り、夕暮時より雨。