1335声 蛙に睨まれた人

2011年08月27日

庭。
と言っても、俗に言う、猫の額ほどのものだが、
そこに数本、果樹が植えてある。
柿の葉は、若葉の頃の艶やかさが抜け、うっすらと紅葉してきた。
左に二本隔てて、植えてある山帽子は、実に紅い色が付き始めてきており、
実り具合を伺う事ができる。
今年は、豊作の様。

丁度、ひと月前頃だったか。
盛夏の日の夜、酔眼朦朧として帰宅したのは、もう深夜。
そのまま、シャワーを浴びて寝よう。
と言う事で、おぼつかぬ足取りでシャワーを浴び、洗面所で歯を磨いていた。
口を注ごうと、洗面台に顔を向けると、目が合った。
白い洗面台の上に居た、蛙と、である。

「蛇に睨まれた蛙」
と言う諺があるが、
「蛙に睨まれた人」
状態で、人である私は、一瞬にして、全ての動作が停止してしまった。
ちと呑み過ぎたかと思って、目を凝らすと、そこには確かに、
五百円玉くらいの青蛙が、手を付いている。
一呼吸置き、歯ブラシを口に突っ込んだまま、そろりそろりと手を伸ばした。

徐々に近づいている手が、あと一息で、掴める距離に来たところ。
「ぴょん」
と、飛び上がった青蛙。
慌てて追うと、着地に失敗したのであろう、床に落ちて情けなく体勢を崩している。
そこをついて、素早く手を出すのだが、如何せん、酔っ払い。
的を外れて、青蛙はまたもや、ジャンプまたジャンプ。
そうこうしていて、結局、洗濯機の下にもぐりこんでしまった。
そして私は、口を注いで寝てしまって、翌朝にはケロッと忘れていた。

それが、昨日の深夜、およそ一カ月ぶりに、あの洗面台で再会した。
背中の青色は、日に当たらなかった所為か、随分とくすんでいる。
その眼光にも、なんだか、盛夏の夜に見た精彩が欠けている。
サッと掴んで、玄関から柿の木の根元付近へ放り投げた。
微かに、「べチッ」と言う着地音が聞こえたので、どうやらまた、
着地に失敗したようであった。

【天候】
一時小雨降るも、概ね晴れ。