1368声 秋のレクイエム

2011年09月29日

「ヴッ」
瞬間的にハンドルを切って、回避した。
非常事態に遭遇した時、人間の動体視力が力を発揮する故か、
目の前のスローモーション映像が脳裏に焼き付いている。
その映像の中に映っていたのは、路肩に横たわっている、獣。

下仁田町から佐久市へ繋がる、国道254号線。
通称「内山峠」。
この峠道を、佐久市へと抜けるべく、秋晴れの穏やかな昼下がりに走行していた。
紅葉にはまだ早いが、秋の日に揺れるコスモス。
その上に広がる、高く何にもなく碧い空。
清々しい心地で、ドライブを楽しんでいた。

カーブを曲がって、次のカーブ。
またカーブを曲がって、それはあった。
体長は小柄な大人二人分くらい。
最初は「鹿」と思ったが、バックミラーで確認したところ、
おそらく「カモシカ」だろう。
横たわっている姿に、血痕は見られず、毛並みもふんわりとしていたので、
息絶えてから、あまり時間は経過していないと見受けられる。

十中八九、車にはねられたのだと思うが、確認していないので分からない。
光を失ったその眼は、なんだか、とても寂しそうであった。
秋から冬にかけて、動物たちは里に下りて来るので、峠道では、
こう言う状況をたまに見かける。
この時期の動物たちの目は、おしなべて、寂しそうな眼をしている。

夜、定例の句会で、この話をしたら、
「持って帰ってくりゃー良かったじゃん」
と言うのは、先生。
特別天然記念物を、むやみに持って帰ってくる事など出来ない。
しかし、あの路肩に寝かせておくのも、かわいそうである。
窓の外から聞こえて来る虫の音が、今夜はどうしても、
レクイエムに聞こえた。

【天候】
終日、清々しい秋晴れ。