目が覚めてから、カーテンも明けぬまま、朝の薄明かりの寝床で、
脇に置いてあった本を引き寄せて、読んでいた。
分厚い本なので、ここ一週間くらいかけて読み進めていた。
今朝、丁度読み終わりそうだったので、そのまま読了してから、起床しようと思った。
田辺聖子著「花衣ぬぐやまつわる……」(集英社)。
と言う本で、大正・昭和初期に活躍した女流俳人「杉田久女」に関する内容である。
タイトルにもなっている、「花衣ぬぐやまつはる紐いろいろ」や、
「谺して山ほととぎすほしいまま」などの句は、俳句入門書の類に頻繁に出て来る有名な句。
「久女」と聞くと、やはり、ホトトギス除名晩年の精神病院の印象が強く、
狂気の内に最期を迎えたと喧伝されている。
著者はその喧伝、つまり噂に不信感を抱き、ひとつひとつ丹念に久女ゆかりの地へ足を運び、
噂の出所と事実関係を洗い出して行く。
忠臣蔵的と言うか、主君の汚名や大切な人の冤罪を晴らす為、所謂、「俳壇」と言う大きな闇に、
一縷の光を照らすと言う印象を受けた。
なまじ、その大きな闇に属していないので、遠慮や躊躇なく暗部には光を当てているので、痛快だった。
俳句を「芸術」と強く意識し、その芸術に惜しげも無く自分の才と人生を捧げた、
稀有な女流俳人「杉田久女」。
著者が巻末で「愛する句」として、一句挙げている。
甕たのし葡萄の美酒がわき澄める (久女)
この句には、晩年の暗い雰囲気はみじんも無く、ハイカラな才媛の雰囲気が漂っている。
いかにも「モテそう」であり、そう言う「たのしい」久女の一面を、著者は紹介したかったのだと感じた。
鶴舞ふや日は金色の雲を得て (久女)
久女の句は、俳句に親しむ私たちの心の空で、伸び伸びと舞い飛んでいる。
【天候】
雲一つない、秋日和。