1409声 朝の目

2011年11月09日

どうにも、朝食が不味い。
それは、朝食のメニューが気にいらないのではなく、
自らの体の具合が芳しくないから、である。

朝が弱い。
思えば、我が人生で、気持好く朝食を食べていたのは、
もう中学生時分の事で、高校生以降は、満足に朝食を食べていない気がする。
高校生になって夜更かしをするようになっていたし、
進学して一人暮らしするようになってからは、生活のリズムが大幅に乱れてしまった。
今となっては、一汁三菜なんて、純和風な朝食を食べる事など、
ビジネスホテルのバイキングか、ほのじに泊まった時くらいなもので、年に数える程度ある。

「朝飯を食って来ない奴は、目が死んでるんだよ」
そう豪語していたのは、社会人になった時の先輩で、勿論、私に向けての言葉。
それから、なんとか食パン一枚やヨーグルト一個などを、寝惚け眼で、
と言うよりも半分寝ながら喉へ流し込んで、朝食をとるようにした。
それでも、東京に住んでいた時分は、マンションのすぐ隣にコンビニがあるのをいい事に、
通勤途中に「ウイダーinゼリー」を買って歩きながら飲んた。
その当時は、CMに木村拓也が起用され、「10秒チャージ・2時間キープ」と言うキャッチコピーで、
大々的にウイダーinゼリーを売り出していた。
どこかしら、忙しぶっているスタイルで、都会の社会人になりたかったのかも知れない。

ウイダーinゼリーならまだしも、時折、コーラや缶珈琲などを、朝食とする時もあった。
排水の匂いの立ちこめる川沿いの倉庫には、フォークリフトで荷を運んでいる作業員が大勢いる。
その敷地を抜け、黴臭い細い路地へと入る。
よろけたらブロック塀に肩がぶつかるくらいの通りには、家々が密集して建っていて、
道沿いには住宅の窓が向いていた。
不味そうに缶珈琲を咥えながら、猫背気味に路地を行くと、いつも開いている窓があった。
覗くともなしに見える窓の中の部屋には、窓際のベットに寝ている、お婆さんの姿が見えた。
丁度、朝食時間なのだろう、ベットに付けられたテーブルには、朝食の御膳が載っている。
食べ終えたのか、食べ始める前か、お婆さんは少し傾斜しているベットに寝たまま、
いつもこちらに視線を向けていた。
一瞬。
お婆さんと目が合うのだが、特に会釈するでもなく、過ぎて行った。

「寝たきり」、なのだろうと思った。
なんだか、部屋の雰囲気が暗く、少し、怖い感じもした。
あのお婆さんの意目には、気持の好い朝に、ポケットに手を突っ込んで、
不味そうに缶珈琲を飲みながら歩いてゆく若者が、どんな風に映っていたのだろうか。
今となっては知る由もないが、あの寝たきりのお婆さんの、
活き活きとした眼光だけは、よく覚えている。
【天候】
終日、穏やかな冬晴れ。