どうにも、朝食が不味い。
それは、朝食のメニューが気にいらないのではなく、
自らの体の具合が芳しくないから、である。
朝が弱い。
思えば、我が人生で、気持好く朝食を食べていたのは、
もう中学生時分の事で、高校生以降は、満足に朝食を食べていない気がする。
高校生になって夜更かしをするようになっていたし、
進学して一人暮らしするようになってからは、生活のリズムが大幅に乱れてしまった。
今となっては、一汁三菜なんて、純和風な朝食を食べる事など、
ビジネスホテルのバイキングか、ほのじに泊まった時くらいなもので、年に数える程度ある。
「朝飯を食って来ない奴は、目が死んでるんだよ」
そう豪語していたのは、社会人になった時の先輩で、勿論、私に向けての言葉。
それから、なんとか食パン一枚やヨーグルト一個などを、寝惚け眼で、
と言うよりも半分寝ながら喉へ流し込んで、朝食をとるようにした。
それでも、東京に住んでいた時分は、マンションのすぐ隣にコンビニがあるのをいい事に、
通勤途中に「ウイダーinゼリー」を買って歩きながら飲んた。
その当時は、CMに木村拓也が起用され、「10秒チャージ・2時間キープ」と言うキャッチコピーで、
大々的にウイダーinゼリーを売り出していた。
どこかしら、忙しぶっているスタイルで、都会の社会人になりたかったのかも知れない。
ウイダーinゼリーならまだしも、時折、コーラや缶珈琲などを、朝食とする時もあった。
排水の匂いの立ちこめる川沿いの倉庫には、フォークリフトで荷を運んでいる作業員が大勢いる。
その敷地を抜け、黴臭い細い路地へと入る。
よろけたらブロック塀に肩がぶつかるくらいの通りには、家々が密集して建っていて、
道沿いには住宅の窓が向いていた。
不味そうに缶珈琲を咥えながら、猫背気味に路地を行くと、いつも開いている窓があった。
覗くともなしに見える窓の中の部屋には、窓際のベットに寝ている、お婆さんの姿が見えた。
丁度、朝食時間なのだろう、ベットに付けられたテーブルには、朝食の御膳が載っている。
食べ終えたのか、食べ始める前か、お婆さんは少し傾斜しているベットに寝たまま、
いつもこちらに視線を向けていた。
一瞬。
お婆さんと目が合うのだが、特に会釈するでもなく、過ぎて行った。
「寝たきり」、なのだろうと思った。
なんだか、部屋の雰囲気が暗く、少し、怖い感じもした。
あのお婆さんの意目には、気持の好い朝に、ポケットに手を突っ込んで、
不味そうに缶珈琲を飲みながら歩いてゆく若者が、どんな風に映っていたのだろうか。
今となっては知る由もないが、あの寝たきりのお婆さんの、
活き活きとした眼光だけは、よく覚えている。
【天候】
終日、穏やかな冬晴れ。