日が沈むと、いよいよ夜風が痛いくらいに凍てて行く。
こうなると、湯屋までの道のりがとても億劫になってしまう。
「億劫」と言っても、寒風に晒されながら歩く、と言うこともない。
私は郊外に住んでいるので、近隣の湯屋へ行くのにも、車を使う。
それでも、寒い車内に乗り込むには、ちと勇気がいる。
良く行く銭湯へ出掛けた。
「22日はゆず湯」
脱衣場に貼ってあるこのポスターを見ると、しみじみと年の瀬を実感する。
日曜日の夜、深い時間なので空いていた。
空いているので、ゆったりと湯船に浸かって一句ひねろう。
なんて悠長な事は、とてじゃないが、できない。
何故ならば、熱いのである、湯が。
普段もこの銭湯の湯は熱いのだが、冬場は殊に拍車が掛かる。
巷の銭湯はど大方、外気温が寒くなると、当然、湯も冷めるのが早くなってしまうので、
目一杯沸かして熱くする。
普段熱い湯を、さらに熱くなるのである。
それがどれくらいか。
銭湯へ行ったことの無い人には、中々伝わりづらいが、
私が巷でよく熱いと感じる湯に、足湯がある。
爪先を浸けるだけで「あちっ」と、反射的に避けてしまうくらいの。
あの足湯と同じ程度かと思う。
寒くて爪先の皮膚感覚がおぼろげになる。
と言うのはあるが、この銭湯の湯では熱くて爪先の皮膚感覚がおぼろげになる。
足の裏が白くふやける、と言うのはあるが、ここでは、赤くふやける。
しかし、これは修行が足りない私の感覚であって、
常連さんなどは、終始涼しい顔をしている。
何度も、湯船から入ったり出たりしながら、忙しい入浴を終えると、
帰る頃には辛かった寒風が、湯ざましに心地好かった。
【天候】
終日、雲多くも冬晴れ。