「麻布十番」
東京メトロのその駅の、何番出口だったかは、
乗り換えにてんやわんやしていたので定かでない。
兎も角、その出口を出た。
そこから、スマートフォンの画面に出した地図を眺めながら歩く。
今思えば、小型探知機で獲物を探しているようで、甚だ滑稽な姿であるが、
田舎者は必死である。
何度もおなじ辻を通り、ようやく、目的の店を見つけた。
その店の、カウンターの奥に滑り込んで、とりあえず、一杯。
ここはビアバー、つまり、ちょいと質の高い麦酒を提供しているバーなのである。
国内の地ビールが主なのだが、オープン記念として、「パッピーアワー」と銘打って、
特定の時間だけ半額になる。
その時間を目がけ、まだ日も沈まぬうちから一杯やろうと言う魂胆である。
落ち着いて店内を見まわすと、なるほど客筋もひとくせありそうな人ばかりである。
雑誌ライターなのであろうか、タイトな黒パンツを履いた女性は、
先程から写真を撮っては、なにやらメモしている。
自分の右隣の席には、若い女性二人なのだが、会話がネイティブな発音の英語である。
二人とも、注文の際は日本語になるので、日本人である。
左はと言うと、白人系のおっさん二人、かなりできあがっており、声が響いている。
そんな中で私、リュックを懐に置いて、ハイペースで黙々と麦酒を飲んでいる。
酔いも手伝って、注文の時の身ぶりが、欧米人野それのようにそこはかとなく、
大袈裟になっているのが悲しい。
ともあれ、数を飲んだ中でも、和歌山県のナギサビールのペールエールは絶品であった。
国内の美味いエールビールが飲めると、無性にうれしい。
【天候】
曇りのち夕方より雨。