16声 麦酒溺愛者の生殺し

2008年01月16日

待ちに待った風呂上りの一杯。
缶ビール(350ml)を一気に喉の奥に流し込んで、「今日はほんとにすまないことを…」と冷蔵庫の前で低く呟く、
午後十時の冷えた台所であった。

なぜ関西弁なのかは別として、なぜ呟きを発しなければならないのか。
昨日の事、頻繁に昼食を取るパスタ屋に入った。
いつも座っている席に座り、カルボナーラを注文。
待っている間、斜向いの席に来たのは、「PTAでは役員やっていますのよ」と言う様な風体のおばちゃん3人組。
その中の一人がかけている眼鏡の、薄紫のグラデーションがかかったレンズがそれを象徴していた。

ココまでは良かった。
問題はその後。
そのおばちゃん3人組、真っ先に注文したのが「生2つ」。
その言葉に思わず耳が「ピクリ」と反応し、「やりやがったな」と言う言葉が脳裏にこだました。
程なく、私が注文したカルボナーラより先に、おばちゃん3人組のテーブルに生ビールが運ばれ、
「かんぱ〜い」している。
それからそのおばちゃん3人組、ちょこっとビールの上澄みの泡を飲んだかと思えば、
堰を切った様に、ビールはお構い無しで雪崩式にしゃべることしゃべること。
私は食事の間中、ほったらかしのビールが気になってしょうがなかった。
みるみる泡が減って、気が抜けて、ぬるくなって行くビールを生唾を飲み込みながら眺めていた。

「オバタリアン達よ!まぁグイッと飲みなさい!」
私はあえて死語を交えて、力強く言った。
姿を夢想した。
食べ終えて席を立とうとした時、おばちゃん3人組はやっとこパスタを注文していた。
悲しい事に、ビールはそのままだった。
「ありゃ残すな」と思った。
愛しの生ビールを見殺しに、店を出たのであった。